ヘリウム液化装置には圧縮空気で動作する空圧弁が多数用いられていますが、その圧縮空気は計装空気発生装置によって作られ、配管を張り巡らせて各空圧弁に届けられています。 今回はこの計装空気ラインである空圧チューブ継手に多数の漏れが発見されました。 状況と対処、そして原因についてまとめましたのでご紹介いたします。
 
<圧縮空気の漏洩が多発>
ある日、液化機天板上の計装空気ラインの継手からエア漏れが発生している事が漏洩音より判明しました。 発泡液で調査したところ、漏れ箇所が無数に発見されました。 そこでまず、漏れ量の酷い5箇所から補修しました。 補修方法は、単純に空圧チューブを引き抜いて先端を少しカットして、新しい面を挿入するといったものでした。 ところが、いずれの箇所も漏洩量が増加してしまい状態を悪化させてしまいました。 何が悪かったのでしょうか。 カット・再挿入したチューブ側の問題か、そのチューブを受ける継手側の問題なのか、それぞれについて考えてみました。
 
<対処>
@チューブのカット・再挿入: チューブは当初ハサミでカットして、断面が歪んでしまうのでペンチで形を整えて補正していました。 私の知っている空圧チューブはチューブの側面がパッキンと密着するタイプですが、もしこの継手がチューブ断面(端面)でパッキンと密着する仕様なら、断面の状態に依存するので漏洩量が増えてしまった原因と言えそうです。 そこでハサミではなく、カッターで慎重に切ってバリ等もきれいに処理して試しました。 これによって漏れが無くなるかと期待しましたが、結果は全く効果が無く、漏れは止まりませんでした。 チューブが原因ではないようです。 ちなみにカットした断面を確認すると金属(アルミ)の層がありました。 樹脂部の温度変質や高圧力に対応できる高価なもののようです。
 
ハサミは止めてカッターで切る 金属の層があった
 
AT字継手: 圧縮空気(計装空気)はステンレス管で液化機近くまで配管され、そこから圧力調整器を経て10mmの空圧チューブに変換されています。 さらに10mmの本幹で配管され、各空圧弁ごとにT字継手で分岐して6mmチューブに変換されて、それぞれの空圧弁ポジショナーへ接続されています。 発泡液による漏洩チェックでは、T字継手の10mm本幹側はいずれの継手でも漏洩は見られず、分岐した6mm側で漏れが確認されました。 6mmへ変換してる部分は、10mm口に径落とし部品(レデューサー)が挿入してありました。 どうやらこのレデューサーが怪しそうです。 T字継手を丸ごと交換するとなると、10mmの本幹側のチューブも取り外さなくてはいけなくなり、触ったことによって新たにそこでもエア漏れが発生してしまう可能性があり、なるべくなら触りたくありません。 今回は幸いなことにレデューサーだけを取り外すことが出来るので、ここだけを交換する事にしました。 取り外した既設のレデューサーは金属製のものでしたが、計装空気ラインの最大使用圧は1MPa未満であるため、すぐに手に入る樹脂製の汎用品のもので代用しました。 交換の結果、見事に漏れが治まったかのように見えましたが、時間が経過すると蟹泡が確認されました。 当初の漏れ量からは大幅に改善したものの、微量の漏れが残っているのが気になります。 そこで、試しにチューブについても手元にあった汎用品チューブ(アルミ層なし)に交換してみたところ、なんと完全に漏れが治まりました。 継手とチューブの相性があるのでしょうか。
 
材質や形状は違うが仕様は満たしてる 大幅改善も微妙に漏れてる・・
 
<飛び火>
当初、空圧弁側の継手からの漏れは軽傷な個所一部のみでしたが、元々漏れてなかった箇所も含めて新たに本格的な漏れが多数発生しました。 レデューサーの交換作業に伴いチューブを抜き差しした事によって、当たり面が変わってしまった事が良くなかったのでしょうか。 結局、空圧弁側の継手も交換する事になりました。 しかし、この程度でシール不良に発展してしまう事を考えると、既存継手のシール材(パッキン)がかなり劣化していたのかもしれません。
※空圧弁側の雌ネジは平行ネジG1/4になっていましたが、空圧チューブ継手エルボー型に平行ネジのものが無かったため変換継手で間に合わせています。 (変換継手:平行ネジ G1/4 ⇔ テーパーネジ Rc1/4、チューブ継手:テーパーネジ R1/4 ⇔ チューブ 6mm)
 
新たに漏れてきた・・ 交換したら治った
 
常時圧力がかかっている空圧弁ポジショナーまでは漏れ調査済みでしたが、その先にあるポジショナーから弁体へ接続されている部分については、空圧弁が稼働する液化運転中でないと確認できませんでした。 後日改めて確認してみたところ、漏れているだろうとの予想に反して全く漏れはありませんでした。 こちらに関してはチューブの抜き差し等、不用意に触らない限りはまだセーフだったという事でしょうか。
 
<範囲拡大>
空圧弁は液化機天板上以外にも、液化機ターミナルボックスやORSに設置されており、ここではT字継手ではなく、10mmから6mmへ径落としするマニホールド(集合配管)とつながっていました。 これらも調べてみると、空圧弁側で漏れが確認されたので、同様に継手とチューブを交換しました。 しかし、これまた同様に作業前まで漏れが無かったマニホールド側で新たに漏れが発生してしまいました。
ここに関しても、このマニホールドを交換するとなると、上流側にある10mmチューブ側も外すことになり、レデュサーの時と同様に更に新たな漏れを発生させる事が危惧されます。 漏洩は蟹泡程度なので、交換前の空圧弁側の漏れ量よりは遥かに少ない状況です。 これらを勘案すると、これ以上の深追いはしない方が良さそうです。 完全補修とはいきませんが、総じて大幅に改善できたので良しとしましょう。
 
こっちでも漏れてる・・ 交換したら治まった
 
引き換えにマニホールドが新たに漏れてきた 微量なので見なかったことに・・
 
<原因は劣化?>
取り外した継手を分解したところ、パッキンがきちんとありました。 分解前に目視した際は見えなかったので、そもそもパッキンが無いタイプなのか(そういう様式があるのか知りませんが)と疑いましたが、パッキンはちゃんとありました。 パッキンを精細に調べましたが、亀裂等のエア漏れにつながるような明瞭な損傷は見られませんでした。 結局原因ははっきりとはわかりませんでしたが、設置から10年になるので経年劣化によって柔軟性を失い、密閉性が損なわれていたという事でしょうか。
 
分解したらパッキンが入っていた 変形しているが亀裂等損傷はない
 
今回は偶然発見されたエア漏れから、多数の漏洩箇所を発見して補修するに至りました。 補修過程では触ったことによって、新たに漏れが発生してしまったり状況が悪化してしまうなど、散々な目に遭いました。 前述したように計装空気ラインは設置されてから10年経過しており、経年劣化による不具合が次第に表面化してきているのかもしれません。 設備全体においても同時期に導入されたものが多いため、今後別な部分で新たな不具合が発生するかもしれません。 日頃のメンテナンスや点検確認等、不具合の兆候を見逃さないよう、より一層注意した管理が求められることになりそうです。
なお、今回取り外した既存の継手やチューブは、金属製(チューブについては金属層を内包)のしっかりしたものでした。 使用圧力や大気雰囲気下かつ室温で使うものとしては、オーバースペックなものが使われていただけではないかと考えています。 しかし、新しく交換した樹脂製の安価な継手やチューブが、今後の運用で不具合を起こさないか、こちらについても注意深く監視していく必要があります。