極低温室では液体ヘリウム(-269℃)および液体窒素(-196℃)を学内に供給しています。 理学部施設でありますが、様々な研究を下支えする基盤施設として西千葉キャンパス全域の研究室に利用されています。 寒剤の主な用途としては強磁場の発生と物性測定などの冷却剤として、有機化合物や高分子合成、不純物などのトラップ用寒剤として、 DNA・RNAなどの抽出のための組織凍結、生物試料の急速冷凍や凍結保存の冷却剤として利用されています。
千葉大学では1974年に理学部にヘリウム液化装置、液体窒素貯槽が設置されました。 2001年に現在の建物に移り、2010年にヘリウム液化機を中心に大規模な設備更新を行い、 大学における重要基盤設備として低温寒剤の安定供給に努めています。
 

極低温室(共同研究・実験棟)


<液体ヘリウムの供給>
窒素が大気中に大量に存在しているのに対してヘリウムは非常に希少なためとても高価な天然ガスです。 一度大気中に放出してしまうと取り出すことはできません。 そのため液体ヘリウムを利用する研究機関では蒸発したヘリウムガスを回収し液化・再利用する リサイクルスタイルを採用しているところが多い状況です。 千葉大学でもヘリウムを使用する実験装置のある建物から極低温室まで回収配管が共同溝(地下ピット)を通してつながっており 極低温室では回収したヘリウムガスを液体ヘリウムに変える(液化する)ための装置が稼働しています。
ヘリウムの利用サイクルを順を追って解説してみます。 まず液化された液体ヘリウムは移動式の専用容器で実験室へ運搬されます。 実験で使用されると蒸発して気体になります。 気体になったヘリウムガスは回収配管を通って再び極低温室へ戻ってきます。 そして液化装置によって再び液体ヘリウムに戻ります。 という事でヘリウムは液体と気体の状態を交互に繰り返しながら学内をグルグル回っています。 サイクルの過程ではやはり若干の損失は生じてしまうため適宜業者よりヘリウムを購入して補充しています。

液体ヘリウムを小型容器で運搬します 気化:実験装置で利用すると蒸発します
液化:液化装置で液体ヘリウムへ戻します ヘリウムガスが回収配管を通って戻ります


<液体窒素の供給>
液体窒素については当施設では液化製造は行っていません、ガス会社より購入しています。 週1回タンクローリーで液体窒素貯槽へ充填してもらっています。 学内への供給は24時間365日(保守/検査時は除く)セルフで利用してもらっています。 ご利用は登録制で利用者情報と容器情報を登録し、バーコードを使って汲み出し操作を行います。 利用履歴は利用者ごとにカウントされ、年間の集計量を年度末に請求しています。

ローリーによる充填 学生の汲み出しの様子


<利用状況>
年間供給量の推移を見ますと、液体ヘリウムに関しては大局的にみて減少傾向になっています。特に2023年は減少しています。 近年、研究室の予算事情がより厳しくなりつつあり、その結果として低温実験が控えられているように推測されます。 また、ヘリウムの外部購入価格(損失分をガス会社から買って補充する)が高騰し、 極低温室の予算事情も困窮しているため補充分を購入できず、学内保有量を減少せざるを得ない状況になっています。 利用者と極低温室ともに縮小傾向に陥っており、この先が心配されます。
液体窒素に関しては減少傾向が一段落して、近年は横ばいの状態が続いています。




年間データ
集計期間 液体窒素 液体ヘリウム
供給量
(L)
供給量
(L)
液化量
(L)
液化機平均
運転時間(h)
液化機年間
稼働時間(h)
平均液化速度
(L/h)
2001.01〜12 178,500 4,743 10,667 8.0 726 -
2002.01〜12 157,700 6,589 11,739 11.5 691 21.8
2003.01〜12 165,300 8,675 11,897 12.6 718 24.3
2004.01〜12 157,400 11,220 14,004 11.0 1,005 22.0
2005.01〜12 169,954 12,615 14,770 10.7 1,312 16.9
2006.01〜12 165,443 14,176 17,559 12.2 1,185 20.7
2007.01〜12 152,293 12,067 16,933 16.3 1,075 20.2
2008.01〜12 159,527 13,067 19,817 18.2 1,308 18.4
2009.01〜12 175,966 17,843 23,883 19.1 1,702 16.5
2010.01〜12 138,643 17,204 28,875 13.3 906 43.6
2011.01〜12 127,863 15,829 32,377 19.1 919 44.9
2012.01〜12 129,134 19,445 38,713 17.8 1,049 47.3
2013.01〜12 102,428 9,598 28,734 17.6 776 47.0
2014.01〜12 107,715 14,729 32,849 17.9 857 47.7
2015.01〜12 99,131 10,148 23,284 16.6 661 45.9
2016.01〜12 95,547 9,483 23,266 17.9 628 48.2
2017.01〜12 90,555 7,986 22,749 18.7 597 49.2
2018.01〜12 82,650 8,502 24,641 18.1 634 50.2
2019.01〜12 89,112 11,286 25,697 17.8 695 47.8
2020.01〜12 79,117 10,120 24,501 14.8 712 46.1
2021.01〜12 89,142 11,935 26,832 17.0 750 46.3
2022.01〜12 89,413 9,787 24,653 17.4 662 49.0
2023.01〜12 82,831 5,528 17,975 16.4 559 43.2


<設備>
ヘリウム液化装置を構成する主要機器を下記にご紹介いたします。 2010年3月に設備更新が行われ、現在稼動している大半の装置がこの時に導入されました。


ヘリウム液化機
LINDE L70

液化用圧縮機
KAESER CSD122 

回収用圧縮機
BAUER V5-G18.1  *2基 


液体ヘリウム貯槽
WESSINGTON 1,000L

長尺ボンベ
75m3*12本 900m3 

液化窒素貯槽
CE-5 5,000L 


<極低温室について>
“極低温室”という名称から冷凍室を連想して「どんな防寒着を着てるのか?」「夏は涼しくてうらやましいな」などと言われます。 しかし実際には「低温寒剤を取り扱う部署」という意味であり室内は冷たくありません。 むしろ圧縮機など熱を発する機器が多いため夏季は非常に暑くなっています。 また室内では高圧ガスを扱っているため万が一爆発事故が起きた場合に周辺への二次被害をなるべく引き起こさないため屋根が壁に比べて強度的に弱くできています(トタン板)。 つまり爆発で壁が崩れるよりも屋根が損傷するようになっています。 この簡素な屋根のため日照への断熱効果が小さく、これも夏季の室温上昇の原因の一つになっています。
室内には防音壁が設置されていないため圧縮機が起動すると稼働音が鳴り響き人の訪問に気がつかないことがあります。 御用の際はドアノックではなく、ドアを開けて声をかけてください。 なお極低温室は担当職員が1人のため不在になってしまう場合もあります。 不在の場合はお手数ですが掲示されている連絡先をご参考ください。