予冷
初めて液体ヘリウムを装置へ汲む場合はあらかじめ液体窒素で冷却しておく必要があります。 これによって液体ヘリウムの蒸発量を抑えることができ経済的でもあります。 予冷後は窒素を完全に排気しヘリウムガスで置換しないといけません。 液体ヘリウムの温度では窒素は固体窒素になってしまい詰まりや閉塞・密閉の原因になり危険です。


移送:トランスファー
液体ヘリウムを汲む(移送する)ことをトランスファーといいます。 液体ヘリウムは温度が非常に低いため通常のチューブでは激しく蒸発して移送ができません。 このため液体ヘリウムが通るチューブを真空の空間で覆い断熱する真空断熱二重管構造の専用トランスファーチューブを使います。


【トランスファー手順】
一般的な汲み出し方について解説します。

トランスファーは差圧によって行います。まず送り元である容器の内圧が逃げないようにするため 容器の回収バルブを閉じて密閉状態にします。トランスファーチューブを容器にゆっくり挿入します。 容器内の液体ヘリウムから見ると室温のトランスファーチューブは温度差が300度の灼熱の金属棒です。 ヘリウムが激しく蒸発しますので容器内圧は上昇します。必要に応じて容器内を更に加圧します。
下図右のようにトランスファーチューブの一方を容器へ挿入し、他方を開放してるのはトランスファーチューブ内の空気を 追い出してヘリウムガスに置換し、そしてヘリウムが流れる経路を冷却するためです。
前述の通りヘリウムは大変貴重だというのに冷却中ヘリウムガスを大気中へ放出している理由は、 冷却中のヘリウムガスは装置内のヘリウム槽の温度に対して高温であるため、 吹き付けることで、元々溜まっていた液を逆に蒸発させてしまうのを防ぐためです。



圧力差により容器外へ向かって液が押し出されます。液がトランスファーチューブ内を蒸発しながら進み、チューブ内壁は徐々に冷やされてゆきます。 先端より蒸気の放出が激しくなり白煙が出たら、液がチューブの先端まで迫っています。すばやく装置供給口へ挿入します。



装置ヘリウム槽にも温度分布があり、ヘリウム液面付近に比べ供給口付近は温度が高くなっています。 ですので下図左のように高い位置から降らせる場合、蒸発ロスが大きくなります。 なるべく液面近くまでトランスファーチューブ先端を挿入します(装置により異なりますので、それぞれの状況に従って下さい)。 これは見えないので、長さを測って目印を付けておくなど工夫が必要です。



装置ヘリウム槽の液面が上昇し、真空断熱のされていないレベルまで上がってくると、急激に蒸発量が増え回収配管を通るガス量が増えます。 回収ガスメーターを監視しているとメーター回転速度が如実に変わります。 満タンのサインですので、供給元の容器内圧力を抜いて充填を終了させます。
下図右のように供給元の残量が不足またはトランスファーチューブの挿入が足りないと吸い込み口が液層からガス層になり、ガスを送り込むことになります。 これではせっかく溜めた液を蒸発させてしまいます。この場合も満タン時ほど急激ではないですが蒸発量が増えますので、 チューブをより差し込むかまたは充填を終了させてください。




【移送データ】
極低温室での貯槽から小型容器(ベッセル)へのトランスファー状況をグラフにまとめました。 使用しているトランスファーチューブの内径は4ミリです。


【左図:充填量-所要時間】100L汲むのに約60分ほどかかっています。 移送速度は加圧加減や前回トランスファーからの時間間隔にも左右されます。 平均移送速度は 1.4L/min でした。

【右図:充填量-浪費率】浪費率=使用量/充填量:例えば100L汲むのに120L使用すると浪費率1.2としています。 充填量が少なくなると無駄な蒸発量が増え浪費率が急激に大きくなります。