千葉大学では夏期に契約電力量を越えてしまうことがあり、これを改善すべく需要が多くなる時期を避けて機器を運転する
、いわゆるピークシフトが推奨されています。消費電力量が大きい当施設もその対象となりました。 具体的には、平日と比べ電力需要の小さい土曜日または日曜日に液化運転を行う、夜間に液化運転を行うなどが検討さ れました。結局のところ電力需要の多くなる夏期に限り、週三回運転(利用状況によって増減)を週二回運転にしその 内一回は土曜日に行うという対策をとりました。 このような状況の下、液化運転を単に液化速度だけで評価するのではなく液化時の電力消費に関しても考える必要性があり、 製造単価(電気代)という指標でもって液化運転を考察してみました。 【液化運転いついて】 ヘリウムガスの液化運転の行程は大きく分けると「冷却過程」と「液化過程」に分けられます。起動後すぐに液化が始まる わけではなく装置内部の冷却にある程度の時間を要します。「冷却過程」の所要時間は前回運転日からの間隔や季節 などにより変わりまが、概ね3時間程かかります。電気代は「冷却過程」「液化過程」ともに同じだけかかっています。 週18時間のガス量を液化すると仮定して、週3回運転と週2回運転さらに週1回運転で比較してみますと、 図を見てわかるとおり週当りの運転回数を減らせば電気代が節約できます。週3回運転と比較して 週2回運転の場合は冷却過程3時間分が、週1回運転の場合は冷却過程3時間×2=6時間分の電気代が節約でき ます。運転回数を減らし一回の運転を長時間にするほど省エネ効果があります。しかし、それだけの大量のガスを 貯め込む前に液体ヘリウムの供給需要により液化運転が必要になります。まずは保有量を増やす必要がありそうです。 現在の保有量は回収圧力容器の容量に見合った量で、液体ヘリウムが全て蒸発してガスになった場合に 回収できる上限で推移させています。これを越える量を保有することが必要になります。 そこで最低でもどれほどの時間または量を液化すればよいのか探ってみました。 (※上記はあくまで概略で実際には 週1回運転の場合は前回からの運転日数間隔が開くため装置内部が昇温するので冷却過程が長くなります。逆に週3 回運転の場合はまだ冷えているので冷却過程が短くなります) 【実際の運転状況の把握】 何時間運転すればよいのか、何L液化すればよいのか目安を検討するため、実際にはどういった運 転状況であるのか把握する必要があります。 製造単価(電気代)の計算
製造単価(電気代) = {消費電力量 / 液化量}× 電力量単価 ただし電力量単価は特別高圧で受電している場合の一般的な値で計算しました。製造には電気代のほかに 液体窒素代(液化装置の冷却)と水道代(圧縮機の冷却)がかかりますが、ここでは電気代についてのみ考察しております。 最近の運転のデータをもとに以下平均値を算出し、製造単価(電気代)との関係をグラフにしてみました。 一時間当りの平均消費電力量 : 63.9 kWh 一時間当りの平均液化量 : 19.5 L 液化が始まるまでの冷却過程 : 3 h 右表:【平均値から計算した製造単価曲線】起動と同時に消費電力量は加算されていきますが、液化量は3時間遅れで 加算されていきます。したがいまして液化時間が短い間は製造単価の値の変動幅が大きく、液化時間が長くなればなる ほど冷却過程3時間の比重が小さくなり製造単価の値の変動幅も小さくなります。 上左図:【製造単価−液化時間】計算曲線によれば製造単価が60円/Lになるのは液化が始まってから約7時 間後。実測値を見ると10時間以下ではばらつきがあり、10時間以上で60円/L以下に抑えられている傾向が見られる。 上右図:【製造単価−液化量】計算曲線によれば製造単価が60円/Lになるのは液化量が約140Lほど。実測値では 175L以上の液化量で60円/L以下に抑えられている傾向が見られる。 上左図:【製造単価−液化速度】液化速度が速いと製造単価も抑えられている傾向が見られる。 液化速度が約22.0L/h以上で60円/Lに抑えられている傾向が見られる。 上右図:【製造単価−平均入力圧】ばらつきが大きく傾向がつかめない。(※200psi=約14kgf/cm2) 液化速度の計算 一時間当たり何L液化できているのか、下式より計算してみました。 液化速度(L/h) = 液化量(L) / 液化が始まってからの時間(h) 同じく最近の運転のデータをもとに液化速度との関係をグラフにしてみました。 上左図:【液化速度−液化時間】液化時間が10時間未満ではばらつきが大きく、10時間以上で20L/h以上の傾向が見られる。 上右図:【液化速度−液化量】液化量が175L以下までは傾斜をもって比例していますが、175L以上では傾斜がゆるくなり、20〜 25L/hで一定となる傾向が見られる。 上図:【液化速度−平均入力圧】多少ばらつきはあるが圧力を与えれば液化速度も上がる傾向が見られる。205psi以上で概ね 20L/h以上にのってくるだろうか。 【目安の設定と実行結果】
・液化時間:10時間以上 ・液化量:175L以上 ・入力圧:205psi以上 前述の通り、10時間液化分もしくは175L分のガスを貯め込む前に液体ヘリウムの供給需要により液化運転が必要になる状況で ありましたが、保有量を回収圧力容器の容量を1.5倍まで増やして対応してみました。これは全ての供給先に 供給し尽くした状態でさらに液化運転を175L分できる量として計算しました。 この目安を踏まえ運転を行った結果、右上表【運転状況の比較】のようになりました。ただし、考察後の運転回数はまだまだ少ないです。 考察前の製造単価平均値:64.0円/L 考察後の製造単価平均値:51.4円/L ⇒なんと2割低減! 液化運転にかかわる電気料金が2割も低減できるのは昨今の予算状況としては実に大きいです。 運転をこの水準で一年間続けた場合、年間液化量1,7000L(06年実績参考)として 1,7000 L ×(64.0−51.4)円/L = 214,200 円 約20万円の節約になります。 下図に考察後の運転状況を●マークで加えました。 上左図:【製造単価-液化時間】長時間運転を行うことで製造単価が抑制されていることがわかります。 上右図:【製造単価-液化量】長時間運転を行うと比例して液化量も増加するため、結果としては左図と同様に製造単価が抑制されていることがわかります。 上左図:【製造単価-液化速度】考察前の青い帯に対して考察後の黄色い帯は若干傾きが寝ているように見えます。同じ液化速度においても 製造単価が抑えられているように見えます。 上右図:【製造単価-平均入力圧】入力圧への依存性は特に見られない。 上左図:【液化速度-液化時間】長時間運転すればするほど液化速度が出るというわけではないようです。特に傾向は読み取れない。 上右図:【液化速度-液化量】見方にもよるが考察前の青い帯に対して考察後の黄色い帯は右にスライドさせたようにも見える。同じ液化量に対して 考察後の方が液化速度が出にくくなったということか。 上図:【液化速度-平均入力圧】圧を与えれば液化速度が大きくなる傾向が考察前よりはっきりしたが概ね同じに重なっている。 今回の考察では運転の工夫次第で思っている以上の省エネ効果が得られることがわかりました。 引き続きこの考察に則った運転を維持し、製造単価平均値の抑制効果を検証して行きたいと思います。 |