低温寒剤を扱う多くの機器は真空断熱(真空で覆うことで熱の授受を遮断している)により寒剤の蒸発を抑制しています。
この真空槽ですが気体粒子が流入しますと真空度が悪くなり断熱の効果が薄れてきます。
シール剤の劣化や溶接部分のピンホール、内槽や断熱材などから出てくるアウトガス
など原因は様々ですが徐々に真空度が悪くなるようです。
このため真空排気装置を用いて再排気を行い真空度を保つ必要があります。 今回はこの真空排気装置と真空機器をつなぐ真空引きアダプターを製作しましたのでご紹介いたします。 | |
<真空引きアダプターの形状> 真空槽と外界を隔てている栓は通常Oリングなどで密閉しています。 この栓を収納している外枠(真空引きポート)と真空引きアダプターも同様にOリングで密閉し外界の空気が入り込まないようにします。 真空引きポートの形状はOリングが備わっているものと備わっていないものがあります。それぞれに応じて製作してみました。 |
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Oリングが備わっているポート | Oリングが備わっていないポート |
・機器側にOリングがある場合の断面 アダプター側の片側にはOリングが必要なく、製作は比較的易しくなります。傷のない滑らかな面が必要です。 |
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・機器側にOリングがない場合の断面 アダプター側にOリングが必要です。製作は一手間増えます。 |
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下図のように単純に内側に溝を掘ってOリングをはめてやればいいのですが、
溝の表面を真空漏れが起きないように滑らかに加工しないといけません。
しかしこのようなOリングのはまる数ミリの幅では狭過ぎるため滑らかに加工するのは私の力量では困難です。
そこで上図のような締め込みタイプ(ウィルソンシール)で製作しました。 下図右に締め込みタイプ(ウィルソンシール)の簡略図を示します。 袋ナットを締め込んでいくとリング状の押さえ(スリーブ)がOリングを斜面に押しつけて内側へめり込ませます。 これによって挿入物との隙間をなくし真空漏れを防いでくれます。 |
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<製作> 製作過程を写真でご紹介いたします。 旋盤加工:本体 |
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旋盤加工:袋ナット(ポート側) | |||
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旋盤加工:袋ナット(引き抜き棒側) | |||
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旋盤加工:真空引き分岐ポート | |||
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旋盤加工:スリーブ(押さえリング) | |||
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旋盤加工:引き抜き棒 | |||
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銀ロウ付け加工 | |||
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試し真空引き | |||
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<ラインナップと使用例> サイズ違いと形状違いのものも製作しました。使用している様子を示します。 |
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<真空引きについて> ・加熱すると効果的 真空槽を加熱して引いてやるとより効果が出ます。これは真空槽に残留している粒子に 熱エネルギーを与え活発に運動させると真空引きしやすいからです。 氷の入った冷たいグラスに空気中の水蒸気がトラップされてグラス表面に結露するように、 低温寒剤が内槽の中に入っている状態では真空槽に混入している微量の粒子は冷却された内槽表面にトラップされます。これをクライオポンプといいます。 真空引きする際はもちろん室温まで昇温した状態で行うわけですが、室温よりも更に温度を上げてやるとより効果的に真空引き出来ます。 |
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下記写真は液体ヘリウム容器を真空引きした際にヒーターを巻いて加熱した様子です。 加熱し過ぎると真空槽に内包されている断熱材などの接着部が溶け出すなど不具合を生じますので手でさわれる程度にしておきました(適温はわかりません)。 |
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・ヘリウムの暖ガスは要注意 液体ヘリウム容器の場合特に注意が必要なのがヘリウムガスの真空槽への侵入です。 というのはヘリウム分子は他の気体分子よりも真空引きがし難いと言われているからです。 低温寒剤用の真空断熱容器には寒剤の溜まる内槽と外部につながるネック部分は熱の侵入を防ぐため熱伝導の極めて悪い FRPと言う素材が使われているものがあります。 ところがこのFRPですがヘリウムが温度の高い状態の場合は透過できてしまうようです。 容器に液体状態のヘリウムがある場合、FRPであるネック部分にあるヘリウムガスは冷温ガスであるため真空槽への透過は起きないようですが、 容器内の液体ヘリウムを枯らして昇温させてしまうと内槽のヘリウムガス温度も上昇してしまいますのでFRPを透過して真空槽へ入り込んでしまうようです。 したがってヘリウム槽にヘリウムの暖ガスをそのまま放置すると真空槽の劣化につながるので窒素ガスなどで置換することが必要です。 真空槽を真空引きしている時に内槽にヘリウムガスが入ったままですと真空槽にヘリウム分子を招き入れるだけですので 窒素ガス等で満たしてから行わないと効果的ではありません。 |
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・ガスの封入 上記でも触れましたが真空槽へ入り込んだヘリウム分子の真空引きは難しいといわれています。 そこでよく用いられる方法は他種類のガスを真空槽へあえて封入して真空引きを行うという方法です。 ヘリウム分子が一緒に巻き込まれて吸引されるという事のようです。 一般的には安価な窒素ガスを用いる事が多いです。 この場合、何度か封入と真空引きを繰り返してヘリウムの濃度を希釈していきます。 同様な例として真空断熱された装置を暖める目的であえて真空槽にガスを封入して断熱を壊して昇温する場合においても 上記の理由でヘリウムガスではなく窒素ガス等を用います。 |