設備更新では新トランスファーチューブ(液体ヘリウム移送管)も導入され、液体ヘリウムを小型容器へ汲み出す移送能力が飛躍的に向上しました。
まず旧液体ヘリウム移送管の内径が4.0mmだったのが新移送管では内径が7.0mmと太くなり移送速度が格段に速くなりました。
これにより所要時間が大幅に圧縮できました。
そして形状も固定式タイプの移送管からフレキシブルタイプの移送管になりました。
右写真のように特異な形状でかなり大型なものです。
旧装置では移送管が固定されていて小型容器をリフターで上げ下げすることで移送管の抜き差しを行っておりました。
これに対して新装置では逆になり小型容器が固定され移送管を上げ下げして抜き差しします。
これにより操作性も抜群に良くなりました。
移送管自体が大型化したため蒸発ロス(例:100L汲もうとしても途中で蒸発するので合計で150L使ってしまう)が増えてしまいましたが、
トータルでみれば作業効率の大幅な向上に対して蒸発ロス増加によるマイナス要素の比重は微々たるものと感じています。
実際の数値ではどれほど良くなっているのか、早速トランスファーデータを新移送管と旧移送管で比較してみましたのでご紹介いたします。 |
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<移送能力> 右図は液体ヘリウムを小型容器へ汲む所要時間と充填量の関係をグラフにしたものです。 旧移送管では100L汲むのに50分〜60分前後かかっていましたが、 新移送管では概ね20分以内で汲み終えています。この速さは本当に驚異でした。 新旧どちらも充填量とは比例関係ですが見ての通り傾きが大幅に小さくなっています。 下図左は移送速度と充填量の関係をグラフにしたものです。移送速度は驚くほど速くなり、 最高では12L/分に達しています。従前と比べると5〜6倍ほど速くなっています。 移送速度と充填量との関係は旧移送管では充填量が大きくなるほど移送速度も速くなる比例関係がありました。 一方、新移送管ではこのグラフを見る限りでは比例関係が全く見られません。 これはどういうことなのでしょうか。 液体ヘリウムの移送では初期段階においては移送管の流路を冷やしたり 容器内部を冷やすために液体ヘリウムを蒸発させています。 このため液が溜まり始めるまでには少し時間がかかります。 |
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旧移送管では移送速度が遅いため充填時間が長く、
この初期段階のタイムロスが時間とともに比重が小さくなったと思われます。つまり
充填量が多いほど充填時間も長くなるので結果的には移送速度が上昇したように算出されているのかもしれません。
一方、新移送管では移送速度が速いため充填時間が短くこの影響がほとんど現れていないのかもしれません。
ただ初期段階のタイムロスを考える場合、トランスファーチューブが室温からの移送と既に冷えている状態からの移送で
状況がだいぶ変わってきます。これについては条件分けして詳しく調べる必要がありそうです(後述)。 下図右は移送速度と貯槽への加圧加減の関係をグラフにしたものです。 これも所要時間と同様になんとも言えない様子ですが、 加圧量が大きいと移送速度が出ているようにも見えます。 10L/分 以上速度が出ているのは0.03MPa以上の加圧状況でしか実現していません。 |
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移送速度が速く所要時間が短いのは非常にありがたいことなのですが、 移送に伴う蒸発ロスが多くてヘリウム使用量がかさむようだと移送効率が良いとはいえません。 そこで浪費率(使用量/充填量)でも確認してみました。 下図を見るとどちらのグラフも全般に新移送管のほうが浪費率が大きくなっています。 つまり蒸発ロスが大きいということです。 これは新移送管が旧移送管に比べて内径が大きくなった事、 移送管の長さが長くなった事、形状が直管からフレキシブル管(断面が蛇腹)になった事などが関係していると考えられます。 つまり液体ヘリウムが流れる内壁の表面積が大きくなったのでその分内壁を冷やすのに余計に液体ヘリウムを蒸発させていると考えられます。 下図左では散漫な分布となり浪費率は充填量に依存性が見えません。また下図右でもいまいち散漫な様子で貯槽への加圧との明確な依存性も見えません。 |
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上述のように新移送管は内径の拡大と経路の長さが長くなった事により熱容量が大きくなりました。 これにより、「室温から」液体ヘリウムを移送した場合と、連続で汲む場合の「冷却済みな状態から」移送した場合で移送効率がかなり異なってきました。 そこで室温からの移送データと冷却済みでの移送データを比較してみました。移送データを分類することで何か特徴が出てくるでしょうか。 下図右では当然のことながら冷却済みでの移送データは室温からの移送データよりも所要時間が短くなっています。 室温からの移送データの分布が散漫なのに対して冷却済みでの移送データは右肩上がりにも見え充填量との比例関係があるようにも見えます。 |
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移送速度における充填量への依存性は下図左を見るとわかるように室温からの移送データ、冷却済みでの移送データともに バラバラな分布となっています。依存関係は見られないようです。一方、移送速度と貯槽への加圧の関係はどうでしょうか。 下図右を見ますと室温からの移送データでは依存性が見られないのに対して 冷却済みでの移送データでは加圧とともに移送速度が上昇して比例関係があるようにも見えます。 |
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最後に浪費率ですが、まず下図左の充填量との関係は室温からの移送データがバラけているのに対して冷却済みでの移送データは 分布幅が狭くまとまりがあるように見えます。傾斜は見られず充填量に依存せず一定な状況でしょうか。 下図右の浪費率と貯槽への加圧の関係では、室温からの移送データでバラけていますが加圧が大きいほど 浪費率が小さくなり反比例しているようにも見えます。 また冷却済みでの移送データでも傾斜は小さいですが反比例の関係があるようにも見えます。 加圧を大きくすると移送速度は速くなりますが押し出す側と吐き出す側で圧力差が出来てしまうので 沸点の差が生じ、これにより蒸発量が増えてしまいそうですが(フラッシュロス)、 現在の加圧範囲では気にしなくても良い範囲内のようです。 もっと加圧を大きくすると浪費率が大きくなるターニングポイントが出てくるのかもしれません。 もう少し広範囲でデータが欲しいところです。 |
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<自動供給停止装置> 液体ヘリウムを1,000L貯槽から100L・60L小型容器へ汲み出す際に小型容器の満量を検知して自動で供給バルブが閉まる装置が導入されました。 満量の検知は蒸発ガスの排気圧力で判断しています。 液体ヘリウムは極めて温度が低いため絶えず蒸発しています。真空断熱された容器に放置しておいても常に自然蒸発しています。 このため貯槽から小型容器へ汲むなど移動を伴う行為を行うと安置している時に比べて激しく蒸発させることになります。 汲み出し中は保管中よりも太い回収配管に接続して蒸発ガスを回収します。 |
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満量検知のイメージを汲み出し手順に沿って解説します。 | |
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トランスファーチューブ(移送管)を小型容器へ挿入します。挿入量は奥まで入れず上部で止めます。
自動供給開始のボタンを押すとまず供給バルブの開度が小さく流量の少ない予備冷却モードが始まります。 |
@’ |
最初から奥まで挿入するとトランスファーチューブから出てくる暖かいヘリウムガスを小型容器の残液に吹きつけてしまい残液を過剰に蒸発させてしまいます。 |
A |
トランスファーチューブにはある程度の熱容量があるため液体ヘリウムは蒸発しながら進み、徐々にトランスファーチューブ内の流路を冷却していきます。 |
B |
トランスファーチューブが完全に冷却され出口から出てくるものがガスヘリウムから液体ヘリウムに変わります。
グラデーションで示したように容器内部には温度分布があり容器の上部には暖かいヘリウムガスがあります。
真空断熱されていた液体ヘリウムが、この暖かいガス層に放り出されて一気に蒸発膨張します。
このため排気圧が急上昇します。 |
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C |
蒸発したガスによる冷却や膨張によって暖ガスを回収配管へ押し出すことで容器上部のガス層が暖ガスから冷ガスに変わります。
これによりトランスファーチューブ出口での液体ヘリウムの蒸発が少し落ち着きます。 |
D |
BCの排気圧のピークを検知して予備冷却モード(供給バルブの開度が少し)から充填モード(供給バルブが本開き)に切り替わります。
流量が急激に増えるので再び蒸発が激しくなり排気圧が大きくなります。 |
E |
トランスファーチューブを全挿入します。上部から液体ヘリウムを降らせるよりも液面近くで放出させるほうが蒸発ロスが減ります。
これにより排気圧は再び小さくなります。 |
F |
容器内の液体ヘリウム液面が上昇し断熱されていないレベルまで達すると激しく蒸発するため急激に排気圧が上昇します。
この圧力上昇を検知して供給バルブが自動で閉止されます。
Dも排気圧の上昇を伴いますが誤検知しないように充填モード切り替わり後一定時間圧力検知をガードしています。 |
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排気圧の振舞いは小型容器の残液の量や貯槽の加圧加減、トランスファーチューブが既に冷えている連続移送の2回目以降など
条件によって若干変わってきます。予備冷却のピークが出なく検知が出来なかったり、
前述の充填モード切り替わり直後の排気圧上昇を検知してしまったりなどもありました。
これらは条件設定を付加する事でうまく機能するように改修されました。 |