ヘリウムは窒素と同様に反応性をほとんど示さない、不活性ガスといわれるガスで沸点が非常に低いのが特徴です。 液体ヘリウムは誤った用い方をすると重大な事故を引き起こしかねない危険なものです。正しい用い方を日頃より心がけましょう。

ヘリウムについて
・化学的に非常に不活性でほとんど反応性を示さない
・沸点は4.2K(-269℃)
・水素に次いで軽い物質
・気化した場合は699倍(0℃)〜789倍(35℃)に膨張
・無色透明で無味無臭
・ヘリウムには同位体の4Heと 3Heがあり区別して使用されている
  4He(中性子2陽子2)は大気中にわずか0.000524%しか存在しない
  3He(中性子1陽子2)は天然にも存在するが、通常核分裂反応で人工的に作られる



取り扱い注意事項
液体窒素と同様で、非常に低温で、蒸発すると非常に膨張するため爆発、窒息、凍傷に細心の注意が必要です (液体窒素の取り扱い参照)。 容器も液体窒素容器と同様で断熱真空層で熱の出入りを防いでいます。液の溜まる槽はできる限り熱が伝わらないよう 容器の入り口部分のみでつながっており、吊るされた状態になっています。衝撃や振動によってこの部分に亀裂がはいってしまい、 断熱真空を破ってしまうので、扱いは丁寧に行ってください。
また蒸発したヘリウムガスは蒸発した窒素ガスに比べ冷却能力が高く、容易に凍傷になります。 蒸発ヘリウムガスが噴き出している場合は無理にふさごうとせず、勢いがおさまってから対処してください。

液体窒素との取り扱いの違い = 回収&再利用
ヘリウムは大変貴重な物質であるため蒸発したガスを大気へ放出することはせず、回収し再液化します。 実験装置にはヘリウムのみで満たされたヘリウム槽があり、ここへ液体ヘリウムを汲みます。 ヘリウム槽は配管につながっており、蒸発したヘリウムガスはこの配管を通り極低温室へ集められます。この配管を回収配管と呼びます。 回収配管は地下に敷設されており、極低温室から各実験室まで配管されています。 それぞれの装置から室内にある回収配管へ接続する仕組みです。

液体ヘリウム容器も実験装置同様に回収配管に接続し蒸発して出てくるヘリウムガスを回収します。 この接続は容器に付属しているバルブの操作によってなされています。 このため容器や配管のバルブを開き忘れると容易に密閉状態になってしまいます。バルブの操作には気を付け、 密閉状態になっていないか日頃より確認する癖をつける必要があります。 また、液体ヘリウムの入った容器は空気にさらすと空気を吸引する傾向があります。 汲み出す時や検量時は容器の回収バルブを閉める(容器内の圧を保つ)など対策してください。

回収・再利用に関しては“回収ガスの純度”および“回収率”をいかに良好に保つかが問題となってきます。


回収ガス純度
回収配管から極低温室に戻ってくるヘリウムガスは不純物(空気,水分等)を含んでいます。この不純物は 液化する過程で取り除かれます。しかし取り除かれるとはいえ、精製機の負担や劣化を考慮すると 不純物をなるべく含んでいない方が良好です。このため主要ヘリウム利用研究室にはヘリウムガス純度計を 設置し流れる回収ガスが設定純度以下になると警報が鳴るようになっております。

また、液化機内部精製器での取り除き過程(再生といいます)では不純物を一定量蓄積した後、 大量のヘリウムガスで蓄積不純物を吹き出します。 この再生過程の頻度が多いとヘリウムガス保有量の低下につながります。つまり、せっかく回収率が 良くても純度が悪いと液化機が吐き出してしまうということです。

下図は液化運転時の圧力と温度をモニターしたグラフです。赤矢印が再生(不純物を放出)しているところです。


回収ガスの純度によって如実に再生頻度が変わります。 回収ガスの純度低下の原因として考えられるのは、空気の吸い込みです。ヘリウム槽を減圧するためにポンプで 引いた時にどこかにリーク(漏れ)があり、そこから空気を吸い込んでいることがよくあります。リーク箇所と しては開口部の閉め忘れ、Oリングなどのシール部分の劣化ひび割れなどが考えられます。下図はポンプによる空気の吸い込みが原因でした。 純度が悪い場合は連絡を入れますのでご確認 願います。
回収ガスの純度維持にご協力ください。


回収率
各研究室から極低温室へ戻ってくる回収ガスの量を測ることで出荷量に対する回収率を把握しています。 具体的には、ヘリウム利用実験装置のある部屋毎に回収ライン上にガスメーターを設置し、 一定期間毎にガスメーターの値を検針し、この期間の流量を確認しています。

回収率 = 期間ガスメーター流量(液換算量) / 期間出荷量
  ※3ヶ月毎に測っています

気温による膨張率の誤差やガスボンベ利用による流量の誤差により正確性は乏しいものの、大幅な変化があった場合に 漏洩の可能性を察知できる利点はあります。ちなみに回収率は概ね80%〜90%です。