2013年に陥ったヘリウム供給制限(日本は全量輸入していますが世界的に逼迫したため日本に入って来る量が大幅に減りました)を教訓により一層のヘリウムガス回収率の向上が求められていますが、
更なる自衛手段として学内保有量を増やしておくことも有効な対策となりそうです。
保有量と運用量の関係はこれまで「保有量=運用量」としてきましたが、貯蔵能力を増強できれば「保有量=運用量+備蓄量」とすることができ、
今後も起こりうると思われる供給危機が生じた際に効果を発揮できます。
今回は長らくの宿願が叶ってヘリウムガスを高圧にして貯蔵しておく長尺ボンベ(圧力容器)の増設が実現できましたのでその様子についてご紹介いたします。 <長尺ボンベの増設> 従前の長尺カードルは2009年度の設備更新で新規に設置されたものとそれ以前から運用してきたものと合わせて75m3型ボンベ10本でした。 しかし「運用後に気が付いた失敗事項」にまとめたように数量の関係から長尺ボンベの設置位置が中途半端な状況となっておりました。 今回の工事では空いたスペースへ長尺ボンベを2本設置して合計12本としました。 ヘリウムガスが高価なためすぐに保有量を増やす事はできませんが今後少しずつ買い足していく計画です。 |
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増設前:不可解な空きスペースがある | 増設後:デッドスペースが無くなりました | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
長尺ボンベの設置状況について下表にまとめてみました。 現在の極低温室の前身となる施設が開設された1974年に40m3型ボンベ4本が新規に設置されたのが始まりです。 その後2回の増設を経て2010年の設備更新時に古いボンベ1〜8は廃棄され新しいものに更新されました。 ボンベ単体の容量は40m3型から75m3型へ大型化し合計の貯蔵容量も運用初期の約3倍にまで増えました。 |
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貯蔵容量の変遷 |
<設置工事の様子> 設置工事は半日もかからずわずか数時間でスムーズに完了いたしました。 設置位置と建屋ドア枠の高さの関係やカードルのフレーム内へ挿入するという狭さなど非常に難易度が高そうな状況でしたが、壁の切断や配管の取り外しをすることもなく見事に作業されていました。 熟練の作業に感謝いたします。 |
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設置しようとする位置はちょうどこの白い壁の内側になります。 | なかなか豪快ですね。 | 重さ840kgだそうです。よくバランスを保つものですね。 |
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先端を建屋の中へ入れていきます。 | 建屋の中では移動式のチェーンブロックで受けます。 | 吊りベルトを端に付け替えて建屋内へ更に挿入していきます。 |
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なんともシュールな光景です。 | 慎重に位置合わせをします。 | クレーンから外れました。 |
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梁とチェーンブロックをうまく使って少しずつ移動させているようです。 | ついに収まりました。 | 2本目は上段に設置します。 |
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こちらも少しずつ挿入していきます。 | 回転させてバルブの向きを調整します。 | 配管は食い込み継手で接続されました。 |
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最後に配管を加圧して漏れのチェックをします。 | 完成です。 |
<内部目視検査> 長尺ボンベに貯蔵されるヘリウムガス自体は不活性ガスのため腐食性はありません。 しかし実験室から回収されてきたヘリウムガスには不純物(主に空気と水蒸気)が微量ながら含まれており、この不純物によって腐食が引き起こされる可能性は否定できません。 ただしヘリウム液化装置は不純物の混入には細心の注意を払った上で運用されており幾重にも不純物除去の機構が組み込まれています。 また毎年の定期検査において長尺ボンベについては肉厚測定検査を行い厳格に管理されております。 例年の検査結果では減肉は確認されず腐食は起こっていないものと判断しています。 しかしこの度、長尺ボンベを開放して内部の目視検査をする機会がありましたので検査の状況についてもご紹介いたします。 ・5年半使用したボンベ(2010.04〜2015.10) |
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工業用内視鏡を借りてきてボンベ終端の開口部より挿入します。 | 開口部より覗き込んだ様子です。色斑(いろむら)が見えます。 | 内視鏡による内側表面の様子です。 |
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茶色いのは錆ではないようです。 | 色斑はあるものの非常にきれいです。 | 問題ないです。 |
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さて、今回は既存ボンベの内部目視検査を目的に内視鏡をレンタルしてきましたが、設置工事前の未使用ボンベが保管中だったのでせっかくなのでこちらも覗いてみる事にしました。
これにより使用済ボンベと未使用ボンベの比較ができ、運用している事で腐食が引き起こされているのか否かがわかります。 ・未使用ボンベ |
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運良く晴れ続きで乾燥した日に行えました。 | 底面が波打っているように見えます。 | 内側表面の様子です。 |
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未使用品にも色斑がありますね。 | 当然ながら全く問題ないです。 | と言うよりか、これが問題ない状況ということですね。 |
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使用済ボンベと未使用ボンベの状況を見比べる限り全く遜色ありませんでした。
つまり現在の運用状態では腐食を起こすような状態ではない事が裏付けられました。
急な思い付きで未使用ボンベも覗きましたが比較資料を得ることが出来たのでとても意義のあるものとなりました。 |
<肉厚検査> ところで毎年の定期検査で測定している長尺ボンベの肉厚について通算の経年変化はどのような状況なのでしょうか。 一年毎には変化の有無についていつも気にしていますが長期間にわたる通算の変化についてせっかくなのでこの機会に調べてみました。 測定点はボンベ1本につきA、B、Cと3カ所あります。測定時期は毎年1回、同じ時期(定期自主検査は毎年2月実施)なので気温の条件はほぼ揃っているとみなせます。 ボンベ1〜8は2010年設置、ボンベ9、10は1996年設置です。 |
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2004年からのグラフによるとボンベ9、10については2010年に落ち込みが見られます。 これについてはこの年から検査業者が変更になり測定機器も変わっていました。 また翌年2011年にも再度測定機器が変更になっていました。 測定機器の変更でこれほどにも測定値が変わるものなのでしょうか。当然測定誤差も含まれていると思いますがデータによっては1.0mm以上も変化してます。 下記の表では測定条件を揃えるため2004年〜2009年、2011年〜2016年と期間を分割して比較しています。 ボンベ9、10については本当は96年から現在まで20年分通算で変化を見てみたいところでしたが古い資料を確認すると2004年に測定点が変更になっていました。 どういう経緯で変更したのかわかりませんが設置当初からの通算で確認できないのはちょっと残念です。 |
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肉厚測定位置 |
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上記の表を見ますと経過5年間での測定差は大きいものでは-0.6mmというデータが見られます。減肉が起こっているのでしょうか? しかし他のデータには逆に+0.4mmというデータも見られます。この事より測定誤差にはある程度の幅があるようにも思われます。 検査報告書を確認すると検査毎に測定値が上下しているデータがある事や 目視検査において問題が見られない状況も加味すると減肉は起こっていないものと考えて良さそうです。 ただし今回目視検査を実施したのは2010年設置の新しい方のボンベだったため次回は1996年設置の古いボンベも覗いてみたいところです。 新しいボンべについても経過時間が5年とまだ短いので今後注意深く変化を見ていく必要があります。 |