<液体ヘリウム容器> 液体ヘリウム小型容器(100L容器)を新たに3台投入しました。 これにより利用者の増加にも対応でき使い回しが更に楽になりました。 小型容器の数に余裕があると極低温室の都合に合わせて予め汲み置きしておけるので運用する側としてはとても楽です。 当初の小型容器の数がまだ少なかった頃は液体ヘリウムの予約日に空容器を学生が極低温室へ返却して、 その容器へ液体ヘリウムを汲んでから研究室へ汲み出し完了の連絡を入れ再び学生が満タンになった容器を取りに来るという流れでした。 極低温室から遠い研究室などは2往復することになり、特に風雨の強い日などは気の毒でした。 容器数が増えたことにより液体ヘリウムの予約に先駆けてあらかじめ汲んでおくことができるようになったので 学生は空容器の返却と同時に満タン容器を持ち出すことができるようになりました。 |
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特徴としては上右写真を見るとわかるように既存の容器と比べてかなり径が太くなっています。
更に車輪が外側に設置されているため通行幅をとります。運搬時に狭いところを通らせる際には不便なようです。 |
さて今回の導入で極低温室の液体ヘリウム小型容器が9台になりました。研究室所有の容器と合わせると全部で11台になります。
それぞれの容器毎に使い勝手が異なり、殊に蒸発量については「○号機は持ちが良い、○号機は蒸発が多い」などと
だいたいの感覚は持っておりましたがきちんと調べたことはありませんでした。
そこで今回新導入の7,8,9号機の蒸発量が既存の小型容器に対して多いように感じていたので
容器付属の使用記録簿より精細に調査してみました。
取得データは極低温室に安置して自然蒸発した記録を抜き出しています。
ただし測定誤差の影響をなるべく小さくするため安置されていた時間が5日以上のデータのみを更に抽出しました。
それらの蒸発量と測定日数をそれぞれ合計して一日当たりの蒸発量を算出しています。
測定日数が桁違いに多い容器があるのは、安置している時間が多かったためです。
つまり予備容器として通常は研究室へは出回らず、需要がタイトな時に臨時的に出回る容器です。 |
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調査結果をみて感じたのは案の定と言うところでしょうか。 しかし良く考えてみると使用環境差や個体差があるとはいえ容器毎にこれほどまでに性能の差があるのかとも思ってしまいます。 特に7,8,9号機は同機種で同時期投入なので個体差がよく見えているという事になるのでしょうか。 ただし導入してからまだまだ期間が短いのでもう少し時間が経ってから改めて調査したほうが良さそうです。 ※研究室には不特定の容器が不規則に出回るため、表中の容器表示は容器番号を伏せてあります。 |
<液体窒素自動供給停止装置> 液体窒素の汲み出しでは、従前は小型容器から液体窒素が溢れたら満量とし手動バルブを閉じて終了させていました。 これを今回、重さを量ることで満量を検知し自動で供給バルブを閉じる装置が導入されました。 容器毎に空重量と満量設定値を予め登録しておき、自動供給停止装置の量り(ロードセル)で変化量を検知します。 供給ホースの設置形状は液体ヘリウムトランスファーチューブと同様に「∩型」の上向きに飛び出す特異な形状になっています。 これはホース付け根への負荷を軽減するため固定端と供給口の向きを揃えたためです (フレキシブルタイプの移送管参照)。 またホース自体もスーパーベロータイプのものを採用し柔軟性・使い勝手を改善しました。 |
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容器搬入口は段差があるため台車や車輪付き容器が持ち込まれる際にスロープを使って搬入しますが、このスロープの低傾斜化を図りました。
以前は気がつきませんでしたが、今写真を見比べると以前はずいぶん急な角度だったことがわかります。
また雨水・砂等の吹き込みを防止するため側面に雨よけが設置されました。 |
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<運用後に気が付いた失敗事項> 仕様書作成段階では、実際に運用が始まって見ないとわからない不備があるだろうと思っていました。 それはやはりありました。以下気がついた点について挙げてみます。 ※これはこちら側の勉強不足、経験不足を原因とした不備を示しているものであり、納入業者に対する不満ではありません。 |
1.使用方法の確認不足 ・液体窒素自動供給装置 従前の液体窒素の汲み出しにおいてはパスワードによるパソコン制御の電磁弁と手で開く手動弁の2つのうち手動弁が下流にありました。 利用者は電磁弁を開いた後、自ら手動弁を開くことで流量を調整して汲み出していました。 終了後2つのバルブが閉じられると、この2つのバルブに挟まれた区間の液体窒素は蒸発し ガスとなり体積が膨張するため内圧が上昇します。 この区間には安全弁が設置されており、設定圧まで圧力が達すると内圧を外へ噴出すようになっています。 このため装置的には安全です。次回使用時は電磁弁が開いた際は、この区間に溜まっていたガス(安全弁設定圧以下のガス)は 貯槽側へ抜けていきます。 また万が一ガス圧が上昇したまま溜まっていたとしても手動弁を自分で開かない限り利用者側へ噴出すことはありません。 手動弁を自分で開く場合は開いた瞬間に圧力がかかることがわかっているので 供給ホースのハンドルを持たずに開くことはまず無いと思われます。 |
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設定圧以上になると安全弁からガスを放出 | 手動弁を開かない限り何も出て来ない |
ところが新装置では手動弁は電磁弁の上流側にあり、 手動弁を操作することは前提とされておらず、常時開状態で使用する事が想定されていました。 つまりメンテナンス時のみ操作する元弁としての役割でした。 このため今までのように手動弁を閉じた場合に電磁弁との区間が密閉状態となり時間の経過とともに 蒸発膨張した窒素ガスの圧力が上昇し続けてしまうという非常に危険な状況になってしまいました。 さらに危険なのは電磁弁が開いた瞬間に溜まっていた圧力が利用者側で一気に開放される事でした。 供給ホースが激しく揺れ動いて非常に危険です。 |
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逃げ場が無いため内圧が上昇し続ける | 圧縮されたガスが一気に出てくる |
2つの弁の間の区間に圧力が溜まらないよう安全弁を設置する、手動弁は常時開として操作せず電磁弁の開閉のみで汲む、など検討されました。 こちらとしては自ら手動弁を回して開けることで圧力を体感するスタイルは変えたくないと考えておりました。 今のところ手動弁が完全に閉まり切らないように尚且つ電磁弁開放時に貯槽圧がダイレクトにかからないように、 絶妙な「微開」になるように調整に工夫しています。 本来ならば仕様書作成段階または変更申請前までの度重なる打ち合わせ段階でここまで話が及ぶべきでした。 |
2.容量/個数 ・長尺ボンベ 更新前の仕様書作成段階では既設の長尺ボンベの内、比較的新しい75m3のボンベ2本を再利用することを決めました。 新設する長尺ボンベの数量は液体ヘリウム貯槽の容量を考慮すると合計で75m3のボンベが10本ほどが妥当な容量だという計算になりました。 そこで合計10本でちょうどきりが良いので8本を新設する事と決めました。 しかし新設される長尺ボンベがトラックに積まれて搬入される姿を見た時愕然としました。 長尺ボンベはフレームに組まれており縦3本横3本の枠組みに格納されていました。 写真を見てわかるとおり1本分スペースがぽっかり空いています。これは失敗しました。 おそらく8本組でも9本組でも価格はそれほど大した差がないように思われます。 |
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[後悔]9本組にすれば良かった |
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他大学の施設見学を何度も行い、長尺ボンベも何度も見ていたのにもかかわらず全く気が付けなかった事は情けないことです。
施設見学は遊びではなく勉強であるという事を実感しました。以後は気をつけないといけません。 |
3.装置の配置/向き 作業位置と装置の向きが合わず使い勝手が悪いことに気が付きました。 装置の配置を決める段階で実際の使用状況を具体的に想像して決めるべきなのでしょう。 しかし、これはなかなか難解なのかもしれません。 ・液体ヘリウム自動供給停止装置 ヘリウムトランスファーの際トランスファーチューブを全挿入するタイミングは 挿入時に排気圧が上昇しないか確認しながら行います。挿入作業をしつつ操作盤上にある排気圧が見ることが出来ればいいのですが見えません。 少し挿入しては操作盤を確認して、また少し挿入しては確認して、と繰り返しながら様子を見ています。 |
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[現状]作業しながら操作盤が見えない |
[理想]操作盤の向きが変われば見える |
・液体窒素自動供給停止装置 液体窒素汲み出し操作においても供給ホースを保持しながら操作盤を確認しようとすると見えづらい配置です。 汲み出し中は蒸発した窒素ガスが容器の開口部から外へ流れていきますが、 圧力があるため供給ホースを押し上げてしまうことがあります。 このため安全のために供給ホースを保持するよう周知しています。 |
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[現状]作業しながら操作盤が見えづらい |
[理想]操作盤の向きが変われば見える |
・貯槽圧力計 液体ヘリウム貯槽の内圧計は非常に頻繁に確認する圧力計の一つです。 ところが圧力計の設置位置が腰ほどの位置にあります。 一般計器とは違い確認頻度が高い計器類は使い勝手の良いように設置位置に注意しないといけません。 この場合は圧力計が目線ほどの高さに設置されるよう確認するべきでした。 |
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[現状]目線よりだいぶ下にある |
[現状]指示値が見えない(しゃがまないといけない) |
仕様書を作成する段階または発注業者と配置確認する段階で漏れなく伝えられるように、
確認頻度の高そうな計器を予めリストアップしておいた方が良いと思います。
他に確認頻度の高いものといえば液体窒素貯槽の内圧計・液面計、中圧タンク内圧計、長尺ボンベ内圧計などでしょうか。 |
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・回収用圧縮機 従前の回収用圧縮機は水冷式でしたが今回導入した圧縮機は空冷式となりました。 このため空気取り入れ口となる吸気口と吐き出し口となる排気口(換気扇)を新たに取り付けました。 しかし空気の流れが意図した通りには流れていないようで熱がこもってしまった事が原因で 稼動許容気温上限45度を超えたため安全停止してしまいました。 2010年夏は異常なほどの猛暑でしたのでここにも一因はあると思いますが、止まってしまっては困ります。 |
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[計画]下部から吸い込み熱気をさらって上部から排気 |
[現状]熱がこもっている |
[理想]吸気口のそばにあれば? |
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また換気扇は壁面に設置した酸素濃度計と連動して酸素濃度低下時に動くようにしましたが、 同時に圧縮機とも連動させて圧縮機起動時に排熱のため動くようにすべきでした。 夏季は換気扇を常時回しっぱなしにしていましたが回収用圧縮機が動いていない時のほうが時間が 長いため電気代がもったいない状況です。 |
4.カスタマイズ/改良 ・窒素ガス放出量 ヘリウム液化運転では予備冷却剤として液体窒素を用います。この液体窒素使用量を知るためには ヘリウム液化機の窒素ガス放出管から放出される窒素ガス流量を調べる方法があります。 従前の液化機の時も窒素ガス放出管の途中にガスメーターを設置して流量を量れるよう改造をしていました。 装置が新しくなって液体窒素使用量がどれほど少なくなったのかぜひ知りたいところです。 つまり仕様書に「窒素ガス放出管の途中にガスメーターを設置して流量を量れるようにすること」と記述しておくべきでした。 運用後のことまで想像が及ばずすっかり忘れていました。 |
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室外に出てきた配管が室内に戻って再び外に出てくる一見不可解な配管 |
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結局どうしても窒素使用量を量ってみたかったため自分で改造することになりました。
偶然にも至近距離に未使用の壁穴が開いており労せずして簡易的な配管をすることが出来ました。
しかし素人品質ではいつ壊れてしまうのかわかりません。今のところ問題なく測定できていますが、
きちんとプロにやってもらったほうが品質も見た目も断然良かったことでしょう。
(窒素使用量測定結果) |
<運用状況> ・消費電力量 極低温室の運用状況として月別での合計消費電力量と合計液化量の推移を下記グラフに示します。 月間消費電力量は左下図を見てわかるように10,000kWhを超えていたのが8,000kWhあたりまで削減できています。 新液化機を導入したことにより液化効率が良くなり液化運転日数が減ったため総じて消費電力量も圧縮できました。 また月間の液化量は初めて3,000Lを超えました。今のところ液化量が増えても消費電力量は縮小した範囲内となっています。 |
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・ヘリウム保有量 極低温室管理のヘリウム保有量の推移を下記グラフに示します。長尺ボンベ容量の増加(470m3から750m3に)と 液体ヘリウム貯槽の増大(500Lから1,000Lに)に伴い 保有量も増えました。保有量(液換算)を過去から見てみると当初は500L前後で保っていましたが需要量増加とともに 保有量も増えていきました。これは全て蒸発してしまった場合に回収できる限界量を超えて保有している状態です。 更新工事後に過剰な保有状態となっていますが現在1,600L前後で推移しています。 |
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・騒音状況 仕様書作成段階で調査した騒音状況に対して新装置ではどのように変化したのか再び測定してみました。 測定位置は装置が入れ替わったため厳密には異なりますが概ね同位置になるように測定しています。 |
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未運転時(待機状態)ではほとんど変わらず各機器の待機音は同レベルのようです。 回収用圧縮機稼動時は騒音レベルが大きくなっています。 これは回収用圧縮機が水冷式から空冷式に変わったため冷却ファンの音が加わり運転音が大きくなったためです。 液化用圧縮機稼動時は旧装置の移設圧縮機のものと比べると微妙ながら騒音レベルが小さくなっています。 耳で聞いている限りでは全く違いはわからず残念ながら大幅な騒音縮小とはなりませんでした。 回収用圧縮機(2基同時)、液化用圧縮機ともに圧縮機室では約80.0dBと同レベルながら 測定点によって騒音レベルに若干の差が見られます。 これは騒音発生源である機器本体からの距離の違いのようです。 |