デモ実験では「見せる」だけではなく「触ってもらう」ことで参加者の満足度を効果的に高める事ができるのではないかと考えます。 従前の簡易酸素液化装置は毎年のオープンキャンパス等でデモ実験の際に大活躍してくれていますが 一般の人に触ってもらう事を前提にすると少しサイズが大きいように感じます。 サイズが大き過ぎる場合の不具合として考えられることは、液体窒素で内部を満たした際に重量がそれなりに大きくなってしまう事、 実験中に万が一ひっくり返してしまった場合、飛散した液体窒素によって被害が甚大になってしまう事などが懸念されます。 そこで今回は安全性の向上と使い勝手の改善を念頭に小型化してみました。

<小型化>
既存の液化装置は半径360mm中心角90度の扇形の銅板を丸めたものでしたが、今回は半径200mmのもので製作しました。 サイズの根拠は酸素の液化量です。サイズをあまり小さくし過ぎると表面積が小さくなるのでこれに比例して液化能力も小さくなってしまいます。 当初は写真に示した改良型よりも更に小さいものを試作したのですが液化量が少な過ぎてダメでした。 半径200mmでも液化量がやや少ない気がしますが小型化するという目的を考慮してこのサイズで落ち着きました。

従来機と小型化した改良機 使用時の様子

<三脚台の製作>
従来の液化装置には市販の鉢植えスタンドを架台として利用してきましたが大きなネックが一つありました。 それは鉢植えスタンドの素材が磁性を帯びていた事でした。 何も考えずに陳列されているスチール製やステンレス製のものを購入しましたがいずれも磁性がありました。 液体酸素は磁性を帯びているため強力な磁石を近づけると吸い寄せられる性質があります。 酸素液化デモ実験ではこの性質を参加者に体験してもらう事も大きな魅力です。 そこで強力な磁石を用意して滴る液体酸素にかざして試行したのですが、その際に磁石が鉢植えスタンドに吸い付いてしまい、その衝撃で危うく装置をひっくり返しそうになりました。 さすがにこれでは危険なので既存の鉢植えスタンドを止めようと木製や樹脂製の非磁性の三脚台を探したのですがなかなか良いものが見つかりませんでした。 長い事探しましたが結局自分で作った方が早いと判断したので三脚台も作る事にしました。
材料は銅パイプです。磁性が無く加工性に優れています。 試作では液化装置のようにハンダ付けで製作しましたが、銅の熱伝導が良過ぎるためなのか熱が逃げやすくハンダの乗りが悪くかなり難しかったです。 そこで銀ロウ付けで試してみたところ、こちらの方が楽に接着できたので銀ロウで量産する事にしました。 差し込み穴加工もせずそのまま突合せ接着になっているため強度に心配がありましたが耐荷重試験をしてみたところ問題なさそうです。

材料は銅パイプです。 カットして 曲げて
 
ろう付けして 磨いて 出来あがり!


<性能試験>
液化装置の容量を確認したところ大きい従来機は3L、小型化した改良機は0.5Lでした。 液体窒素の液密度(約0.8kg/L)を考慮すると使用時最大で従来機は2.4kg、改良機は0.4kgの重さがかかることになります。 製作した三脚台がこの重さに耐えられるのか実際に液体窒素で満たして性能試験をしてみました。 断熱材には梱包材の端切れを利用しました。 板に円形の穴を切ったものとロール状に巻き付けたものを用意しました。 前者は支える重量が大きくなると割れる危険性もあるので小型化した改良機用とし、後者を大きい従来機用としました。

発泡ポリエチレンの板に円の穴を開けました。 ロール状に巻き付けたものも作りました。 こんな感じです。
 
液体窒素を上限まで注いで試してみました。 従来機4台+改良機7台、全て問題ありません。 鉄アレイ6kgで耐荷重試験してみました。意外と強度があります!


<付帯品>
・受け皿
液化した酸素を溜める受け皿には断熱性があり安価で軽量な発泡スチロールを用いました。 液体酸素の淡い青色を観察しやすくするためには白い発泡スチロールがピッタリです。 穴の形状は少量の液でもなるべく液嵩が高くなるようにすり鉢状にしました。 穴開け加工には下げ振りを用いました。 本来の使い方とまるで違うのですがバーナーで熱して発泡スチロールへ押し当てると溶けて穴が開きます。 とても簡単ですが素早くやらないと過剰に溶けてしまったり焦げ目ができてしまいます。 また、一度加工すると下げ振りの表面に発泡スチロールの溶けカスが付着してしまいます。 そのまま再加熱して使用すると溶けカスが焦げて次に加工する新しい発泡スチロールにも黒く付着してしまいます。 このため一個加工する度に下げ振りを冷却して金ブラシ等で溶けカスの除去が必要となります。これは結構手間でした。 ※発泡スチロールは可燃性です。線香等で液体酸素の燃焼実験を行う場合は不燃性の別容器へ移し替えてから行うようご注意ください。

発泡スチロール・立方体75mm角と下げ振り バーナーで加熱して押し当てると溶けて穴が開きます。 たくさん作りました。
 
従来機と改良機で採れた液体酸素。ほのかに青いです。 液体窒素を横に置いて比較するのが良いです。青さが強調されます。 水銀灯直下に持ってくると色が鮮やかになる事を発見しました。
 
・磁石
実験で使用する磁石はドーナツ型(外径30mm*内径9mm*厚み10mm)のネオジム磁石を購入しました。 手で直接持って液体酸素に近づけるのは危険ですので寸切りボルトの先端に取り付けてスティック状にして扱えるようにしました。 寸切りボルトも手で持つとネジ山が痛いので棒ヤスリ用の柄を取り付けました。 寸切りボルト、ヤスリ用の柄ともに100円程度でとても安価ですがなかなか見栄えが良くまるでこれ一式で製品の様です。 磁石がかなり強力なので保管時用に真空ゴム管を輪切りにしてカバーとしてはめ込みました。 これも適当に選んだ割にバッチリ合ってます。カバーをしても磁石同士や金属に吸い付きますが有ると無いとで全然違います。
早速液体酸素の滴に磁石をかざして試してみました。 残念ながら吸引力は弱く滴下してから落下速度が増すと磁石に吸い付かせるのは無理でした。 直線状の落下軌道を曲げられると面白いのですがそれは難しいようです。 落下速度が大きくなる前、したたり落ちた直後でないと吸い付きませんでした。 磁石を装置先端の真横でかざすと磁石に向けて飛んできて吸い寄せられている様子がわかります。

ネオジム磁石、寸切りボルト、ヤスリ用の柄、ナット、ワッシャー 磁力が非常に強いので取り扱いには注意が必要です。 真空ゴム管が保護カバーとしてピッタリでした。
 
実験の様子 落下速度が大きくなる前が良いので装置先端の真横にかざします。 こんな感じで吸い寄せられます。