予算規模が大きいため発注業者は一般競争入札で決定されます。 一般競争入札を行うために「資料提供招請」「意見招請」「入札公告」という手順を踏みます。 この手順と平行して設備の仕様を練り上げていきます。 今回の場合は納期(予算措置年度の末日まで)までの時間がとても短かったため概算要求での予算獲得の結果を待たずに この行程に進みました。極めてタイトなスケジュールとなりましたが、それでも 仕様書策定委員会発足から落札業者決定まで約6ヶ月もの時間を要しました。

仕様書策定と業者決定の流れ
事項 解説
仕様書策定委員会発足 委員の選定・任命
仕様書策定委員会@ 業者決定までのスケジュール確認、基本的要求用件の整理
資料提供招請 官報に資料提供の要請が掲載される
導入説明会 業者を招いて説明会
仕様書策定委員会A 業者から提供された資料の精査・協議
個別ヒアリング 個別に業者を招き提供された資料について聞き取り・協議
仕様書策定委員会B 仕様書案について審議(承認)
仕様書案に対する意見招請 こちらが示した仕様書案に対して業者から意見を募る
仕様書案説明会 業者を招いて説明会
仕様書策定委員会C 仕様書について審議(承認)
仕様書策定 仕様書が正式に決定される
入札公告 官報に入札公告が掲載される
入札説明会 業者を招いて説明会
入札書の提出 入札書と応札仕様書が業者より提出される
技術審査 応札仕様書が要求用件を満たしているのか審査する
開札 入札書が開封され落札業者が決定される


<仕様書策定委員会>
ヘリウム液化装置一式の仕様書の作成のため、関係教官(理学研究科)および外部部局教官(融合科学研究科、 分析センター)で組織される委員会が設置されました。委員会で実際に仕様書を作成する訳ではなく、 作成された案を検め、確認するオフィシャルな機関という位置付けになります。実務的には、

[現場] 素案の作成  >  [ワーキンググループ] 素案の審議、意見、差戻し  >  [仕様書策定委員会] 承認

という役割分担の構造になっています。現場とは実際にヘリウム液化・供給業務に携わる教官と技術職員、 ワーキンググループとは極低温室運営にかかわる教官数名で構成されました。 現場とワーキンググループで協議を重ね、作り直しを繰り返し案を固め、最後に委員会に提出し 確認・承認されるという流れでした。 設備を構成する個々の機器の能力、使い勝手、既存の再利用設備との整合など、やはりこれは 現場でないと分からない部分でありますので、このような役割分担になったものと思われます。


<仕様書案の作成>
・調達予定品目の構成内容
下記が今回の設備更新に係る仕様書に記載させていただいた最終的な項目です。 この設備更新は単純に装置を購入するだけではなく、各機器の設置工事(配管・配線)や 高圧ガス設備に係る申請・検査などを含むため、物品の価格以外にも多々費用がかかります。 仕様書作成段階ではどこまで仕様書に盛り込むか、予算的に可能か、 業者が落札のためにどこまで価格を抑えてくるのか、などが慎重に検討されました。

 ・ ヘリウム液化機(内部精製器付)
 ・ 液化用圧縮機
 ・ 液化機監視装置
 ・ 中圧タンク
 ・ 三重管式トランスファーチューブ
 ・ 液化機制御計装空気発生装置
 ・ 機器冷却装置
 ・ 液化窒素真空断熱配管
 ・ 回収用圧縮機
 ・ 長尺カードル
 ・ 液化ヘリウム貯槽
 ・ 二重管式トランスファーチューブ(自動停止装置付き)
 ・ 回収ガスバッグ
 ・ 液化窒素自動供給装置
 ・ ヘリウムガス回収配管
 ・ 寒剤容器


・資料収集
参考にした
「ヘリウム液化装置一式」仕様書
年度 大学名
19 岡山大
18 琉大、東大、九大
17 名大、北陸先端大、京大、阪大
仕様書を作成するといっても初めての経験でどうしていいのか分かりません。そこでまず 近年設備更新が行われた他大学でのヘリウム液化装置の仕様書を集め参考にさせていただきました (こういう場面において技術職員同士のつながりが力を発揮します)。 これらを叩き台として取捨選択し更に千葉大テイストを盛り込んで行きました。 他大学の仕様書は事細かく指定している仕様もあれば、大雑把な仕様もあり様々でした。 業者はコストのかからない方向で施工しますので仕様書できちんと明示しておかないと 「仕様書に書いていなかったので○○はしなかった」と主張し 希望に合致しないものが出来上がる危険性があります (これはこちらの意図していることが伝わらなかっただけで業者が悪いわけではありません)。 一方で、完成後の検査では 仕様書通りにできていないといけないため、仕様書で細かく指定し過ぎると状況が変わった 場合に融通が利かなくなる可能性もあります。 さて、実際にその状況に置かれますと、仕様にある程度の柔軟性が必要であることは理解していたのですが なかなか難しかったです。あれは必要これも必要と思いつくものは良いのですが、 思いつかないものが後になって分かると辛いです。 ということで、様々な仕様書に良く目を通しておくことは大切なことです。


・スペック決め
仮定条件
  今現在 近未来 将来
年間供給量(L) 15,000 20,000 30,000
必要液化量(L)
(年間供給量×1.3)
19,500 26,000 39,000
週間液化量(L)
(必要液化量/52週)
375 500 750
右表上側は千葉大学における液体ヘリウム供給量から計算した仮定条件です。 将来的に需要が増えると見込んで、現在・近未来・将来と3段階の液化条件で、単純計算での週間液化量を計算してみました。 実際には活発に実験を行なう時期とあまり行なわない時期があり、 左表の"将来"の週間液化量を現在での利用ピーク期に相当させることができシュミレーションとして有効です。
最も広く利用されているモデルのスペック
圧縮機 液化速度(L/h) 所要電力量(kWh/L)
純ガス 不純ガス 純ガス 不純ガス
45kWh
タイプ
32 28.5 1.41 1.58
55kWh
タイプ
42 37.4 1.31 1.47
75kWh
タイプ
63 56.1 1.19 1.34
まず液化機本体ですが年間供給量から迷うまでもなく各社最小サイズのものが該当しました。 これに適合する液化用圧縮機が複数ありサイズによって液化能力が変わるので最適なサイズを選らぶことになります。 現在国内で最も出回っている某社適合サイズの液化機と液化用圧縮機の組み合わせで以下考えて行きます (不純ガス運転ではヘリウムガス純度を98%、液化速度は純ガス時の89%としています)。 右表によると消費電力量が大きいタイプの方が1Lあたりの所要電力量が小さいことがわかります。 つまり消費電力量が大きいタイプの方が液化効率が良く(電気代が安い)なっています。

ヘリウム液化機は機器内部の温度が極めて低温になるため機器の運転時と停止時で約300度の温度幅を往復しないといけません。 長い目で見た場合、これだけの温度幅の熱膨張・熱収縮を何度も繰り返すと機器の寿命に影響を与えると思われます。 つまり短時間運転を高頻度で行なうことは避け、なるべく長時間運転を行い一度にまとめて液溜めしてしまうのが良さそうです。 この性質を考慮して施設によっては一週間連続運転/一ヶ月連続?!運転の例もあるようです。 しかしヘリウム液化機を稼動させている多くの施設では勤務時間に合わせて朝起動させて夕方停止するという運転スタイルが基本のようです。 当施設でもなるべく朝早く来てなるべく夜遅くまで運転して長時間運転を実現する工夫を行なっています。 ヘリウム液化運転は高圧ガス製造に該当するため高圧ガス保安法によって厳しく管理されております。 同法では製造中に無人になることを禁止しており、これが終夜運転のネックとなっています。 また数日間の連続運転を行なうには、それだけの連続時間分の大量のガス(設備または流通量)が必要で、 規模が非常に大きな大学・研究機関でしかなしえない運転条件となります。

起動時間を元にした運転終了時刻のシュミレーション(不純ガス運転)
装置の起動時刻 06:00 09:00 12:00 15:00
液化が始まる時刻(起動後3時間後) 09:00 12:00 15:00 18:00
45kWh
タイプ
(28.5L/h)
液化量375Lになる時刻 22:09 01:09 04:09 07:09
液化量500Lになる時刻 02:32 05:32 08:32 11:32
液化量750Lになる時刻 11:18 14:18 17:18 20:18
55kWh
タイプ
(37.4L/h)
液化量375Lになる時刻 19:01 22:01 01:01 04:01
液化量500Lになる時刻 22:22 01:22 04:22 07:22
液化量750Lになる時刻 05:03 08:03 11:03 14:03
75kWh
タイプ
(56.1L/h)
液化量375Lになる時刻 15:41 18:41 21:41 00:41
液化量500Lになる時刻 17:54 20:54 23:54 02:54
液化量750Lになる時刻 22:22 01:22 04:22 07:22
以上を踏まえた上で週間液化量を週一回の運転でかつ終夜運転をせず従来通りに一日に押し込める運転を仮定した場合、 右表シュミレーションを参考すると75kWhタイプですと深夜まで達することなく目的量を液化できそうです。 一回の運転での液化量にもよりますが45kWhタイプや55kWhタイプでも 運転回数を週二回にするなり起動時間を工夫するなりすれば対応可能です。 ただ、液化速度、液化効率(所要電力量)および将来的な需要の増加を考慮するとやはり75kWhタイプが良さそうです。 ということで75kWhタイプを選択することになりました。

現在供給量で
連続運転を試算
100時間
連続運転を逆算
年間供給量(L) 15,000 窒素予冷無し仕様
平均液化速度(L/h)
(仮)12.5
必要液化量(L)
(年間供給量×1.3)
19,500 週間液化量(L)
(液化速度*100時間)
1,250
週間液化量(L)
(必要液化量/52週)
375 年間液化量(L)
(週間液化量*52週)
65,000
100時間連続運転での
必要液化速度(L/h)
(週間液化量/100時間)
3.75 年間供給量(L)
(年間液化量÷1.3)
50,000
⇒ 連続運転するには年間供給量の規模が遠く及ばない
ちなみに一週間連続運転するためには最低限どれほどの供給規模が必要なのか計算してみました(右表)。 一週間といっても週間勤務日5日間のうち液化時間は実質100時間程度とします。 液体窒素を予冷に用いない仕様での最小スペックは純ガス運転で14.0L/h(某社カタログ参照)でした。 これを不純ガス運転では12.5L/hと仮定します。 これによると一週間連続運転が成立するのは最低年間5万L供給となっています。 かなり横暴な試算ですが、いずれにしても現在の当施設の供給規模では一週間連続運転には遠く及びません。

液体ヘリウム貯槽と長尺カードルの容量はどちらかが決まれば他方もだいたい決まります。 つまり同じものの貯蔵ですので貯蔵の状態で 貯槽=液体、長尺カードル=気体 ということになります。 現在の液体ヘリウム貯槽容量は500L、長尺カードル容量は470m3ですが、現在の利用状態においても既に容量不足な状態です。 右図は学内における極低温室が管理している液体ヘリウムの保有量の推移です。 当初は不測の事態(故障による液化不能)で液体ヘリウムを全て蒸発させても収容しきれる最大収容量で保有量を保っておりましたが、 供給量が増加したこともあり管理・運営上タイトであったため、 2007年から保有量を増加させ現在は1,000〜1,200L前後で保っております。 上述した様に不測の事態が勃発した場合、保有量の約1/3〜1/2を回収しきれず放出してしまう状態です。
他大学の仕様:容器の自然蒸発損失率の上限
機関 容器容量
(L)
蒸発損失率
(%/day)
条件
A大学 2,000 1.0  
B大学 2,000 1.0 二重管・三重管挿入状態で
C大学 2,000 0.8  
D大学 4,000 0.7  
E大学 5,000 0.5 容器単体で
F大学 4,000 0.7  
これを改善するには貯槽および長尺カードルの容量の増大が必須です。 固定式の液体ヘリウム貯槽とは別に既存の移動式小型液体ヘリウム容器(100Lと60L) の容量は合計は約700Lほどあり、今後の保有量増加を見据えると 新規の貯槽容量とあわせて1,500〜2,000L前後をカバーできればよいかと考えます。 そうしますと新貯槽の容量は1,000Lが適当ではないかと考えられます。 資料提供招請での応札業者からの提案書には2,000L容器の提案もありました。 右表は参考にした他大学の仕様書で液体ヘリウム貯槽の記述について抜粋したものです。 液体ヘリウムは極めて低温のため専用の断熱容器に溜めておいても自然と蒸発して量が減っていきます。 蒸発損失率 1.0%/day とは容器容量を2,000Lとした場合はこの 1.0% にあたる 20L を一日に蒸発して損失 してしまうということです。 他大学から聞いた失敗談として供給規模に見合わない大きな容量の貯槽を導入したばっかりに、 この蒸発損失分を補うために過剰に液化運転が必要になったケースがあるようです。 年間液化量が年間供給量の2.0倍ほどになってしまったとのことでした (これは利用状況による原因もあるので単に蒸発損失率だけでは語れませんが)。 以上のことを考慮し、また液化機および液化用圧縮機のスペック決めで記述した様に 一回の液化運転での液化量を最大750Lと想定していることから 新規貯槽の容量は1,000L容器が適当だと結論しました。
さて、この文章をまとめるために改めて資料を調べて上表を作成したのですが 当大学も "蒸発損失率は 1.0%/day以下 とする" と記載しているものの、その条件について  "二重管、三重管および液面計を挿入状態で" などと記載していなかった事に気が付きました。 これは失敗しました。作成中は煩雑な作業に追われ至らぬ所が出てきてしまうのかもしれません。


・トランスファーチューブの形状
現行の固定式トランスファーチューブは汲み出し先の容器を上下させることで挿入しています。 このためリフターを設置するピットが掘られていますが、つまづいたり転倒の恐れがあるため安全上あまり好ましくありません。 私も何度か転びかけたことがあり、常々注意を払ってきました。 容器の上下に対してトランスファーチューブを上下させる方法もありますが、位置が高所な事もありあまり一般的ではありません。 トランスファーチューブの片側は貯槽に挿入したままの固定が通例となっています。


そこで新設備ではトランスファーチューブ自体が可動するタイプを指定しました。 トランスファーチューブが天井からワイヤーで吊るされスプリングバランサーで上下します。 以前、他機関へ施設見学に訪れた際に紹介され、使い勝手の良さに魅了され 本施設もぜひ導入したいと宿願を持ち続けておりました。
既設の固定式トランスファーチューブは作業時に歪ませてしまって以来、垂直方向から若干ずれているため 挿入時にひねりを加えてやらないといけない状況に陥っておりました。 可動するタイプでは垂直方向に対してフレキシブルであるのでひねる必要もなければ歪む心配もありません。 既設のピットは埋め戻し平らにすることで安全にします。


可動式トランスファーチューブの形状ですが上方へ向かって飛び出し 「∩」 の特徴的な形となっています。 上へ向いているのは固定端を挿入方向と一致させることでチューブ付け根にかかる負荷を無くす効果を果たしています。 挿入方向と垂直な方向の応力は湾曲部で吸収されています。湾曲部がスライドすることで上下へ可動しています。


・長尺ボンベの圧力変化から運転状況の確認(液化効率の監視)
規模の大きな液化施設ではあまり気にも留めないことだと思いますが、当施設では 液化運転中にどれだけ液が出ているのか液化速度(L/h)を注視し、その数値にいつも一喜一憂しています。 新装置では液化運転中の液化速度について長尺ボンベの圧力変化および貯槽の液面上昇から計算して 監視画面に表示できるよう要望しました。
下図はいつも使っている液化効率をモニターしている画面です。 液化が始まった時刻の長尺ボンベ圧の値を入力しておき、現在時刻での長尺ボンベ圧の値を入力してやれば、 変化量から液化速度(前回入力時刻からの区間液化速度と初期時刻からの通算液化速度)と この速度での所要時間から推定終了時刻を計算させています。 運転途中でのガスの戻り(ガスバッグ満タンで何リットル分か)や小型容器への汲み出し、 また後述のガスの詰め替え等も考慮されており補正することでなるべく実際の状況に対応させています。 新装置では長尺ボンベの圧力を電気的に取り込むことと回収用圧縮機の起動時間も取り込まないといけません。
現有の液化機では概ね17〜24L/h程の液化速度が出ます。結構幅がありこの原因が何なのか探っておりますが 結局のところ分かっておりません。ここ最近(2009.09以降)は老朽化の影響からか10〜15L/h程度まで落ちてきています。


・運転ラインから回収ラインへのバイパス
当施設では現在回収ガス高圧容器(長尺ボンベ)が3系統に分かれておりそれぞれが独立に運転ラインと 回収ラインの切り替えができる様になっております。 現有の設備が入った当初はこのような回収ラインへのバイパスがなかったため、平成15年に変更工事を行なった経緯があります。 これにより液化運転中もガスの詰め替えができ、ガス圧に縛られていた運転スケジュールに柔軟性が生まれました。 今となってはこういったバイパスラインを設けるのが標準装備になっているのかもしれませんが 当時は想定されていなかったようです。現場の使い勝手から生まれた好アイデアだと思います。 今回の更新でもこれを維持するよう仕様書に記載いたしました。

 @3系統ある回収ガス高圧容器(長尺ボンベ)からそれぞれ運転ラインへヘリウムガスを供給します。
 A液化運転が進むとガス圧が降下してきます(ガス圧降下を色を薄くすることで表現してみました)。
 B運転に必要な最低圧に達すると液化運転は終了し、長尺ボンベには必要最低圧分のガスが残ってしまいます。


 C1系統は運転ラインに残し、他系統を運転ラインから回収ラインへ切り替えガスの詰め替えを行ないます。


 D1系統へ集約したことでデッドスペース分のガスを更に液化にまわせます。
 E液化が進み運転必要最低圧に達すると液化運転は終了します。
 F回収ラインへ流していた系統を運転ラインへ復帰させるとBよりも多くのガスを液化できたことが実感できます。

現在の長尺ボンベは3系統で [ 4本組-2本組-4本組 ] という構成です。 上記の長尺ボンベ絞り操作を系統間および系統内でも行なうことで極限までガス圧を減らすことができます。 つまり、 [4-2-4] → [0-2-4] → [1-2-4] → [1-0-0] とします。 これは長期休暇前など極力ガス圧を減らしておきたい時や運転スケジュール上止むを得ない場合に非常に有効です。
このガス詰め替え操作は多量のガスを集中的に回収用圧縮機へ送り込みます。流入量が多過ぎると 現有の回収用圧縮機では処理能力が追い付かず回収ガスバッグが満タンとなり大気中へ溢れ出てしまう事があります。 また液化運転中における [1-0-0] では極端に小さい容量にガスを集約するためガス圧の変動が激しく、 ガス詰め替え操作中は注意していないと、上限圧まで達してしまい回収用圧縮機がトリップ(安全停止)したため ガスバッグからガスを溢れさせてしまったり、また逆に液化運転の必要最低圧まで降下してしまったりします。 液化運転の必要最低圧まで降下してしまうと液化機の運転工程が切り替わってしまい厄介なことになります (不純ガス運転から純ガス運転に切り替わるのでこれを再度不純ガス運転に戻さないといけない。 こうなると内部精製器が昇温してしまうため予冷からやり直さないといけないので時間がかかる。)。 このため詰め替え操作中は目が離せません。容量によるので一概には言えませんが詰め替え操作には6時間〜ほどの時間を 要するので、この間付っきりになるのは不便です。


・騒音調査
液化用圧縮機はかなり大きな運転音を発します。参考とした他大学の仕様書にはこの騒音に関して  "圧縮機の機側1mにおいて85dB以下とする" や "80dB以下とする" という記載がありました。 騒音レベルとして80〜85dB辺りがボーダーということのようです。 そこで実際に現有機器でどれほどの騒音レベルなのか測定してみました。



騒音測定の結果 (2008/9/18,9/19,11/18実施)
測定定常値 [単位:dB] @居室 A作業室 B圧縮機室 Cボンベ室 D長尺
ボンベ室
未起動時(待機状態) 38.0 44.0 46.5 37.0 37.0
回収用圧縮機起動時 42.0 53.0 69.0 62.0 48.5
液化運転時(既設機) 54.0 71.0 85.5 77.0 63.0
液化運転時(移設機) 49.5 68.0 80.5 71.5 59.0


感じ方は人それぞれですが、私が感じる限りではかなりうるさいので80〜85dBは越えるのではないかと思っておりましたが 居室、作業室ともに意外と小さな測定値が出ました。 たださすがに圧縮機室では既設圧縮機で85.5dB、移設圧縮機で80.5dBとまさにこのボーダー付近の値となっています。
さて新規にて導入する圧縮機はどれほどの騒音レベルなのか、 応札各社共通で提案してきている某社の標準的なタイプの圧縮機の騒音状況を防衛大学校にて測定させていただきました。 測定結果は73〜76dBで静かとは言えませんが、当施設の現有圧縮機よりは断然騒がしくありませんでした。
以上より、新規で導入すると思われる液化用圧縮機の運転音は現有機器よりも大幅に小さそうです。 85dBや80dBなどの具体的な数値を仕様書で記載している大学はおそらくそれ相当の大型な機器を入れるために数値を記載している のではないかと考えられます。当施設の処理量ではそこまで大きな機器を必要としませんので結局のところ 仕様書には "○○dB以下" という具体的数値は記載しませんでした。


・回収配管の敷設
前項の需要の増加でも記述しましたが、 ヘリウムガス回収配管を新たに敷設する場合は受益者負担となっております。このため設置費用がかかるため、 「外部購入による割高なヘリウム代を支払い続ける」 か 「回収ガス配管を設備投資して数年後に採算をとるか」 天秤にかけている状況です。 配管敷設のため施工業者を何度も現場案内していますが、いずれも見積額が高額なため工事には至らない状況が続いておりました。 やはりこれだけの予算規模でないとなかなか施工できないと思われるため仕様書に盛り込ませていただきました。 これにより利用者数が増加し、供給量も増加することで設備更新の意義もより大きくなることを狙っています。


配管の通っている共同溝(地下ピット)は迷路のように狭く、直角に交わっている分岐点を 長辺数メートルのパイプをどのように通すかが一つの問題です。 切断して短くすると通せるようになりますが溶接箇所数が増えます。 また場所によっては非常に狭く溶接作業も難解と思われる箇所もあります。 共同溝と各建物の基礎部分(地下部分)との互換性ですが、接続していない建物の方が圧倒的に多く、 非常に汎用性の薄い状況となっています。 このため共同溝から直接到達できない建物の場合は掘削・埋設となるのですが、 建物と建物の間には意匠タイルを敷き詰めている箇所がありこれも一つの問題となっています。 意匠タイルは一度剥がすと復元が難しく意匠性が落ちてしまいます。 経路を迂回しないといけませんが距離が長くなると費用がかさむという面も考慮しないといけません。 また自動車等の重量物が通行する道路を横切らないといけない箇所もあります。 この場合には強度も必要な仕様となってきます。 ですのでなるべく共同溝を伝って目的建物まで到達できるのが理想となります。


回収配管新設とあわせて既設配管も一部改良することにしました。 共同溝から極低温室への回収配管の取り込みは現在、下図左のように1系統にまとめて取り込んでいますが、 回収率や回収ガスの純度をより詳細に調査できるよう、下図右のように2系統に別けて取り込み、回収ガスメータを設置するようにします。




<ヒアリングと意見招請>
資料提供招請で各社提出の提案書を元に比較表を作成し、希望のスペックに対して各社の提案はどうなのか、 価格の均一性はあるのかなど精査してヒアリングで質問します。 また、過大・過小スペックのものを希望スペックに変更したり、既設機器の取捨選択など こちらとしての希望を加味してもらった場合金額にどれほど反映するのか、 それによって何を新たに付加できるか・削除するかなど、各社と協議し仕様を練っていきます。

各社提案資料の比較 (数値は出鱈目にしてあります)
必要順位 品目 付帯品目 応札参加業者 協議事項
A社 B社 C社 削除 解説
ヘリウム液化機   190,000,000 180,000,000 170,000,000    
    三重管トランスファーチューブ 3,000,000 3,500,000 4,000,000    
    中圧タンク 4,000,000
(7m3
3,500,000
(4m3
3,000,000
(6m3
  4m3はスペック上問題ないのか?
    液化機監視装置 7,000,000 3,500,000 液化機に含   A社の内容は?
    液化窒素真空断熱配管 2,000,000 1,900,000 2,100,000   なるべく既設のものを再利用できる配置にする
    冷却水チラー 圧縮機の
冷却塔に含
800,000 1,000,000    
    計装空気発生装置 1,500,000 700,000 500,000   A社は高過ぎ
液化用圧縮機   液化機に含
(600Nm3/h)
液化機に含
(530Nm3/h)
16,800,000
(840Nm3/h)
  C社はオーバースペック
    密閉式冷却塔
/冷却水ポンプ
3,500,000 既設利用 空冷式   A社は液化機と液化用圧縮機が冷却塔を共用している
- の合計   180,000,000 200,000,000 190,000,000   (均一比較するために規格化)
回収用圧縮機   27,000,000
(36Nm3/h)
既設利用 31,000,000
(70Nm3/h)
  既設利用は避ける
長尺カードル   12,000,000
(72m3*9本)
14,000,000
(76m3*8本)
20,000,000
(96m3*8本)
一部 C社はオーバースペック
液体ヘリウム容器   7,000,000
(1,000L)
14,000,000
(1,000L)
13,000,000
(2,000L)
  C社はオーバースペック
二重管トランスファーチューブ   3,000,000 5,000,000 2,000,000   B社は高過ぎ
回収ガスバッグ   13,000,000
(20m3
既設利用 9,000,000
(15m3*2式)
既設と新設の併用が良いと思われる
工事関連全て(撤去、搬入、配管、配電など)   83,000,000 96,000,000 77,000,000    
回収配管新規敷設   8,000,000 6,000,000 5,000,000 予算の許す範囲で盛り込む
10 液体窒素供給自動集計装置   700,000 800,000 600,000 予算の許す範囲で盛り込む
11 ミニカードルの設置   600,000 500,000 550,000 予算の許す範囲で盛り込む
12 移動式寒剤容器   1,200,000 1,300,000 1,400,000 予算の許す範囲で盛り込む
 

ヒアリングを繰り返すことでこちらの考えていることが業者へ伝わり こちらの仕様書と業者の応札仕様書が歩み寄って行き、仕様書案が完成されます。 仕様書案ができますとこの仕様書案に対して "実際に納入できるのか"、"無理なことを書き込んでいないか"、 "何を意図しているのか" など業者から意見をもらいます。これが「仕様書案に対する意見招請」です。 業者各社からの意見書を元に練り直しを経て、やっと仕様書が完成されます。




<入札から開札まで>
・入札
応札業者は大学側から提供された仕様書を元に応札仕様書を作成し入札書とともに期限までに提出いたします。 入札書には応札額が記載されています。 最低額落札方式ですので落札するために利益を削って金額を小さくします。 利益度外視で納入実績をとるのか堅実に利益を守るのか業者としては一番神経を使うところかもしれません。


・技術審査
仕様書が完成した段階で仕様書で記載している項目を表に抽出した一覧を作成します。 これは技術審査で使ういわば簡易版仕様書と言ったところです。 技術審査では一項目毎に要求用件に対する回答と応札仕様書の内容を精査して合否を付けていきます(下表)。 不備がある場合は資料の請求をして要求用件を満たすか判断します。 この時点で不合格となった業者は未開封の入札書を返送され、開札に立ち会いません。
本件での合否判定は参加業者全社とも合格いたしました。合否項目は約150項目におよびました。



・開札
大学本部契約課、応札業者、大学事務官(第三者)が立会いの下、既に提出されていた入札書を開封します (我々現場の者は立ち合わせていただけませんでした)。 落札は最低価格を記載した業者となりますが、大学側が設定した予定価格というものがあります。 参加の全社がこの予定価格を下回っていない場合は、予定価格を下回るまで何度も再入札を繰り返すそうです。 一社でも予定価格を下回ったら最低価格の業者が落札ということになります。

再入札の場合は、自社の利益を確保しつつ他社に落札されないよう値下げした金額を記入するそうで大変な神経を使うそうです。 予定価格が低いため落札が会社の利益にならないと判断した場合は辞退という選択もあるそうです。 参加全社が辞退となると入札が物別れという事態になり、資料提供招請からの行程が全て台無しになり、一からやり直しになってしまいます。 このため大学側も予定価格を過剰に引き下げることはできず、予定価格決定には相当な情報収集・計算がありそうです。 かなり緊迫した雰囲気のようです。
ちなみに今回の開札では入札書の最低価格が予定価格を下回っていたため、一発で決まったということです。



<落札公示>
物品を発注するにあたり落札者が官報に公表されます。 どのように記述されているのか興味があったので調べてみました、下記に転写します。
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                  落札者等の公示

 次のとおり落札者等について公示します。
 平成21年4月1日 
[掲載順序]
 @品目分類番号 A調達件名及び数量 B調達方法 C契約方式 D落札決定日(随意契約の場
 合は契約日) E落札者(随意契約の場合は契約者)の氏名及び住所 F落札価格(随意契約の
 場合は契約価格) G入札公告日又は公示日 H随意契約の場合はその理由 I指名業者名(指
 名競争入札の場合) J落札方式 K予定価格

○国立大学法人千葉大学契約担当役事務局長 福島 健郎 (千葉市稲毛区弥生町1−33)
◎調達機関番号 415 ◎所在地番号 12
 @13 Aヘリウム液化装置 一式 B購入等 C一般 D21.2.27 E大陽日酸梶i東京都品川区
 小山1―3―26) F191,100,000円 G20.12.26 J最低価格

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公示については 文部科学省のWEBサイト から閲覧できます。

調達情報
 >政府調達情報検索
  >>公告; 落札公示(これは各種あるので見たいものを選択)、
  >>調達分野; 一般物品、
  >>品目分類番号; 13:一般産業用機器、
  >>調達機関; 千葉大学


「資料等の提供招請」 「仕様書案に対する意見招請」 「入札公告」 も同様に閲覧できます。 また検索対象範囲を広げれば他大学・他機関の調達状況も分かります。 調べてみると入札公告件数に対して資料提供招請や意見招請の件数は1/4程度でした。 これはどういうことなのでしょうか。資料提供招請や意見招請は大半の機関が省略しているのでしょうか。 複合大型機器になると納期までに時間がかかり間に合わないため時間省略なのでしょうか。