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我々の身の回りの物質(我々自身も含めて)は全て元素からできていると言ってよいでしょう。では,その元素はどのようにして作られたのでしょう?実はビッグバン以来の宇宙の歴史の中で,原子核反応により合成されたのです[下図参照。縦軸に陽子数,横軸に中性子数を取り,様々な原子核がどのような過程で合成されたかを表した]。この原子核反応が超新星爆発などの天体現象のエネルギー源にもなります。宇宙の歴史をたどり物質の起源を探るためには,原子核の性質を詳しく知る必要があります。
理化学研究所 リングサイクロトリン10周年記念誌から転載
では原子核ってどんなもの?100個程度の陽子と中性子が,わずか原子の約1万分の1のサイズに凝縮し,量子力学の法則に従ってダイナミックに運動している,と言えばイメージしてもらえるでしょうか。主として強い相互作用に支配される一方,電磁相互作用,弱い相互作用も重要な役割を担っています。当研究室では,そんな原子核の諸性質を,コンピュータも積極的に用いながら理論的に研究しています。量子力学を研究に応用する,あるいは研究を通じて量子力学の理解を深めたい人にも好適です。
現在の原子核物理学の理論的研究の意義は,次の2つに大別されると言えるでしょう。
- 量子多体論の展開・整備
有限性,及び様々な相互作用が関与するという特質を持つ原子核は,量子多体系の一般的かつ深い理解を得る,またそのための理論を構築する上でユニークかつチャレンジングな位置を占めています。束縛状態・共鳴状態・散乱状態,静的性質から離合・集散まで含む非常にダイナミカルな振舞いまで関与する系です。
- 自然界の成り立ちを理解するための重要な鍵
原子核の性質を知ることは,それ自体も自然界の理解のために重要ですが,宇宙の歴史の中で元素の起源を知ること,ニュートリノの性質を始め時間反転対称性やローレンツ不変性またはそれらの破れといった自然界の基本法則を検証するための基礎ともなっています。
当研究室は,後者の側面も意識しながら,前者を主眼として研究を進めています。
原子核の多様な性質は今まで,様々な模型により理解され,実験データとの定量的比較には質量数やその領域毎に異なる有効ハミルトニアンが用いられてきました。しかし,不安定核に対する実験データが豊富に得られるに伴って[不安定核に関する最近の実験(理研)] その限界が明らかになり,また核子間相互作用の理解の進展と計算機の発達も相俟って,核子から成る量子多体系として原子核の性質を統一的・総合的に理解しようという機運が高まっています。未知の原子核の性質に関する予言能力が期待され,元素の成り立ちや中性子星の構造を知るための基礎ともなります。
当研究室では,核子間相互作用の理解の進展を活かしながら実験データとの整合性も重視して「半微視的有効相互作用」の開発を進め,これを平均場理論等に用いて,多数の原子核の構造の研究に幅広く応用してきました。世界的にユニークなアプローチとして知られています。 [レビュー論文]
不安定核研究に適すると共にI-1.で述べた半微視的有効相互作用の取扱いも可能とする,平均場理論及びRPAの為の新しい数値計算法とそれによるプログラムの開発を進め,原子核を総合的に理解するための研究に応用しています。
不安定核には,安定核のデータから知られていた性質と明らかに異なる新奇な構造がしばしば現れます。そのメカニズムを調べることによって核子多体系としての原子核の理解が深まり,また理論的アプローチの試金石ともなり,未知の原子核の予言能力にも繋がります。当研究室では,特に次のような現象に注目して研究しています。
a) 不安定核におけるマジック・ナンバーの消失・出現 [
M3Y-P6相互作用によるMagic numberの予言]
b) 核半径の異常な振舞い ー マジック・ナンバーにおけるキンク,中性子ハロー・中性子スキン
c) 不安定核での新奇な励起モード [2012年プレスリリース]
個々の陽子や中性子はもっと複雑な運動をしているのに,原子核全体は単純に振動していたり回転していたりするように見える --- これが集団運動です。単純に考えると原子核は球形ですが,葉巻型やみかん型,さらにはおむすび型のものもあるようです。なぜこのような集団運動が起こるのかを,核子間相互作用の基本的性質から解明しようとしています。
原子核及びその周辺を巡る次のようなトピックスについても深い関心を持って研究を行い,原子核の統一的・総合的理解,さらには自然界の成り立ちに関する理解を深めることを目指しています。
a) 二重ベータ崩壊[二重ベータ崩壊(U. Warwick)]等,原子核におけるニュートリノ過程
b) 原子核における核子スピンの影響
c) 原子核状態方程式 ー 核子多体系エネルギーの密度依存性,中性子星[中性子星(space.com)]の質量・半径
d) 量子多体理論の整備・展開 ー RPA解の数学的構造, etc.
原子核の持つ温度は通常無視でき,ゼロ温度と見なして差し支えありません。しかし,恒星等の天体においては原子核が有限温度の熱平衡状態にあります。また,原子核の励起状態の統計的性質は「温度」の概念を用い熱力学・統計力学的立場から調べることができます。中でも,核準位密度は原子核の統計的性質を表す代表的な量で,熱力学・統計力学的取扱いの基礎となる一方,天体核反応シミュレーションの重要なインプットでもあり,元素合成等の理解に欠かせません。但し,原子核は有限孤立系であるため保存則が影響を及ぼします。当研究室では,大規模計算及び有限温度平均場理論を併用して有限温度の核構造についての研究を進め,保存則の影響,またそれを適切に取り入れることによって定量的な理解が進展し得ることを示してきました。
1990年頃,原子核の殻模型に量子モンテカルロ法を適用する手法が提案されました。この殻模型モンテカルロ法を原子核の準位密度計算に初めて応用し,従来十分な定量的理解が得られていなかった核準位密度を,量子力学的な立場から付加的なパラメータを用いることなく理解する道を開きました。
II-1.で述べた研究が登場するまで,核準位密度を始めとする有限温度の核構造の研究は主として平均場理論に拠っていました。有限温度平均場理論では相転移と同様の構造変化が起こり,低温で本来成り立つべき保存則の破れた解が得られます。量子モンテカルロ法との比較や量子数射影によって,保存則の影響,構造変化がどのように実際の原子核に反映されるかを調べています。
有限孤立系たる原子核では,準位密度を始めとする物理量の量子数依存性も重要となり得ます。量子モンテカルロ法に様々な量子数射影のアルゴリズムを組込んで,粒子数はもちろん,パリティー,角運動量,アイソスピン毎に物理量を計算する方法を開発してきました。
原子核内の陽子や中性子の運動は光速より十分遅く,非相対論で十分 --- これが今までの常識です。でも本当でしょうか?反粒子の影響は?こんな疑問を追求しています。