講師 | 桑原 拓巳 氏/Takumi Kuwahara (北京大学) |
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タイトル | 複合非対称ダークマターの現象論 |
日時 | 5月14日(水) 14:30 - 15:30 |
場所 | 物理学部1号館 4階 405セミナー室 |
概要 |
複合非対称ダークマター(ADM)は、宇宙のバリオン密度と暗黒物質密度の一致を自然に説明する枠組みである。ダークセクターはダークマターやそれに付随する新粒子の粒子群のことを指し、標準模型の粒子群とは独立した相互作用を持っている。この枠組みでは、ダークセクターにおける強い相互作用の帰結として現れる、ダークセクターのバリオン的粒子がダークマターとして振る舞う。標準模型とダークセクターをつなげるポータル相互作用を二種類導入する。一つ目は、宇宙初期に生成された粒子-反粒子の非対称性を共有するポータル相互作用。もう一つは、宇宙後期におけるエントロピーの移動を担う低エネルギーポータル相互作用として、我々の光子と混合するダークフォトンを導入する。これらのポータル相互作用は、複合ADMシナリオを実験・観測的に探る上で非常に重要な役割を果たす。 ダークハドロンは加速器実験においてダークフォトンを介して生成され、ダークフォトンを通じた標準模型粒子への崩壊シグナルを残す。特に特定の質量スペクトルにおいて、FASERやFACETのような前方検出器実験やDarkQuestのようなビームダンプ実験で、長寿命粒子探索を通じて複合ADM模型を探ることができる。これらの実験では、ダークハドロンの崩壊シグナルから、10^-3から10^-5のオーダーの運動的混合が探索可能であると期待される。このパラメータ領域は、ダークフォトンの短寿命崩壊シグナルでも探索できる領域と一致します。 粒子-反粒子の非対称性を共有するポータル相互作用は、宇宙後期でのダークマターの崩壊を引き起こす。ダークマターは反ニュートリノとダークセクターのメソン的粒子(またはダークフォトン)に崩壊する。その後のダークメソンやダークフォトンのカスケード崩壊を通じて、電子・陽電子・ガンマ線などを放出する。これらの宇宙線の観測と無矛盾であることから、複合ADMシナリオにおけるダークマターの寿命に制限がかけられる。AMS-02による宇宙線陽電子測定からの制限が2 GeV以上のダークマター質量で最も厳しく、寿命は10^26秒より長くなければならない。これらの結果は、粒子-反粒子の非対称性を共有するポータル相互作用のカットオフスケールが約10^8-10^9 GeVより大きくならなければならないことを示唆する。 |
問合せ先 | 北原 鉄平/Teppei Kitahara |