極低温室で稼働させているヘリウム液化装置は電力消費の大きな装置であるため運用に関しては厳しく管理していかなくてはなりません。 千葉大学では建物毎に消費電力量データを閲覧できるようになっています。 これを調べてみますと極低温室のある共同研究・実験棟はヘリウム液化装置が稼働(液化運転)している時だけカウントされ、それ以外の時は消費電力量が0の表示でした。※1 液化運転での電力消費の大半は液化用圧縮機であり、ここだけ電力系統が別(400V)になっていますので、どうもこの電力系統だけをカウントしているようです。 この液化用圧縮機の電力量はヘリウム液化運転の電力量としてほぼ近似する事ができるため、運転状況を調査するには好都合でした。 そこでこのデータを基に運用状況について現状を把握し、節電について考察しましたのでご紹介いたします。 ※1 消費電力量データの集計は2013.10より400V,200V,100Vの3系統についてカウントされるように改修されました。 |
<ピークシフト> まず、ヘリウム液化装置の消費電力ですが最適化された状態で固定されており出力を増減させるような操作は出来なくなっています。 ですので節電対策を講じるといっても装置の電力値そのものは不変です(節電できない?)。 ここで改めて節電をする目的とは何なのかを確認しますと、 電力需要に対して供給が追いつかなくなる事態を回避するためでした。 電力会社からの供給が追いつかなくなると大規模停電に陥ってしまいます。 これを避けるために供給能力が低下した東日本大震災後は輪番停電などの対応がとられました。 もう少し身近な例えとしては、契約電力を超えないようにするためです。 一般家庭では電流制限器(ブレーカー)を設置して、契約電流値を超えた時には電力の供給を遮断する仕組みがとられています。 一方、大学の場合では契約電力値を超えると電力供給の遮断ではなく違約金が課せられる仕組みになっています。 そこで節電で重要なのは一日の内の消費電力の最大値を抑えることになります。 つまり電力需要のピークを迎える時間帯に節電することが重要で、需要の少なくなる深夜や早朝に節電しても効果的ではないという事になります。 以上より、極低温室としての節電対策のポイントはヘリウム液化装置稼働のタイミングと考えます。 図1に理学部の消費電力量の一時間毎の日報グラフを示します。 これを見ると午後の昼下がりをピークに増大し、早朝に最も少なくなる一日単位の増減を繰り返しています。 また週単位でみると週末は平日ほどの増減幅がなくなだらかな形状になっています。 さて、この理学部のグラフに定常的ではなくスポット的に現れる帯があります。 図1では木曜日に現れているピンク色の帯ですが、これがヘリウム液化装置の電力量になります。 山状の分布に覆い被さる形になり電力量の最大値を押し上げているのがわかります。 これについて「昼のピーク時だけ避けて午前と夕方に分割して運転しては?」との提案をいただきました。 しかし、このヘリウム液化装置は以前省エネな液化運転で考察したように短時間運転を高頻度で行う事にはなじまない性質を持っています。 産業機器全般にそうだと思いますが長時間運転を行う方が効率的にできています。 これを踏まえると運転の分割はしない方向で対策を考えないといけません。 |
図1.平日日中に液化運転した時の一時間毎の電力量の推移 |
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・夜間の運転 図2は日中のピークを避け夕方から翌日午前までの電力需要の少なくなる時間帯を狙って装置を運転した時の様子です。 ちょうど分布の谷になる箇所で装置を運転することで日中の電力量の最大値の抑制に寄与しています。 しかし夜間運転には決定的なデメリットがあります。 それは管理する側の負担です。 ヘリウム液化運転は高圧ガス製造行為にあたるため厳格な管理が義務付けられており、 不測の事態に備えてすぐに対応できるようにしておかなくてはなりません。 つまり夜通し付きっ切りになってしまいます(仮眠はとります)。 |
図2.夜間に液化運転した時の様子 |
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・週末の運転 図3は平日のピークを避け電力需要の少なくなる土日を狙った時の運転の様子です。 これを見ると見事に週末のなだらかな部分にはまっています。 これならば夜間運転の体力的な負荷もなく現実的な方法と言えます。 ただし液体ヘリウムの利用量が増大すると週末だけの液化運転では間に合わないため平日にも液化運転が必要になります。 通常ヘリウム液化運転はヘリウムガスの回収量に応じて適宜行う必要があるため、必ず週末のタイミングで液化運転が行えるとは限りません。 これについては液体ヘリウム利用予約状況から回収ガスの貯まり具合を見通してうまくスケジュール調整するのが担当職員としての腕の見せ所なのかもしれません(例えば運転を週2回にするか週1回でもたせるかの判断など)。 |
図3.土曜日に液化運転した時の様子 |
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2006年より電力需要が大きくなる7月に限ってなるべく土曜日にヘリウム液化運転を行うようにするため勤務日をシフトして対策をとってきました。 この中で2012年7月はとてもきれいに土曜日に液化運転を集中できました。 図4はその際の一日毎の電力量の月報グラフです。 上図同様にピンク色の帯がヘリウム液化運転の電力量です。 5、6月は平日に液化運転を行っているので帯グラフの出っ張った部分に乗っかって突起しています。 これに対して7月は液化運転を土曜日にシフトさせたので帯グラフのへこんだ部分に張り付いています。 |
図4.一日毎の消費電力量の推移 |
ただし、このグラフは一日積算の電力量のグラフですので上記で述べてきた瞬間毎のピークシフトを示している資料ではありません。 勤務日シフトという試みの全体的なイメージを示しています。 |
まず、稼働時間を表1のように適当に仮定します。
稼働時間は「予備冷却時間」と「液化時間」の二つで成り立っているため、それぞれについて考えないといけません。 ・予備冷却過程について 予備冷却過程は装置内部を冷やすための過程で、所定の温度まで冷却されると液化過程へ移ります。 予備冷却過程の所要時間は基本的には装置の温度に比例します。 装置が冷えていれば短く済み、暖まっていると長くかかります。 いつも短時間運転で運用した場合は運転頻度が高頻度なため装置内部はまだ冷えており予備冷却過程が短くなります。 逆にいつも長時間運転で運用している場合は運転が低頻度になり運転日の間隔が広く、暖まっているため予備冷却過程が長くかかります。 このため短時間運転と長時間運転では予備冷却過程の所要時間が異なってきます。 まずはこの予備冷却過程の所要時間を概算します。 |
表1.仮定項目
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図7.39時間・149時間経過後のTI3112温度 | 図8.起動時温度と予備冷却所要時間 |
表1のように稼働時間を仮定しますと運転間隔から、運転終了後から次の運転開始までの経過時間が計算でき、 これまでの運転データから装置内部の温度変化を参照することができます。 図7はそれぞれの経過時間後の装置内部の温度です (※装置の内部温度としてTI3112という部位の温度を用いています)。 このデータの平均値を今回の仮定値としました。 図8は起動時の装置内部温度TI3112と予備冷却の所要時間の関係です (冷却特性で考察したように単純な比例関係でなくいびつな形状をしていますが今回は無視します)。 図7で求めた起動時の推定温度を用いて所要時間をそれぞれ読み取ります。 これによると短時間運転では1.5時間、長時間運転では4時間と仮定しました。 これで予備冷却時間が仮定できたことを受けて稼働時間から差し引いて液化時間も決まります。 ・液化過程について 予備冷却過程で装置が十分冷却された後ヘリウムガスが液化される過程です。 この過程で特徴的なのは液化時間と液化速度に比例関係があることです。 図9に液化時間と液化速度の関係を示します。 条件差による多少のばらつきがあるものの比例関係が見られます。 図5,6で見たように長時間にわたって運転したほうが所要電力量が小さくなるのはこの比例関係によるものと思われます。 |
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表2.所要電力量の算出
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図9より、少々強引ですが7.5時間運転と15時間運転の液化速度を読み取ります。
この液化速度の仮定値より表2に示すように昨年の実績データを用いて所要電力量を求めてみます。
この結果を見ると、やはり図6に示した液化時間と所要電力量の実測データとも概ね整合が取れています。
参考データとして昨年2012年の平均データを表に並べてみました。
グラフの分布からもわかるようになるべく長時間運転を実践した内容となっています。
最後に予備冷却過程と液化過程それぞれの所要電力量を合算して液化運転全体で比較してみました。 ※装置の電力値は予備冷却過程/液化過程によらず一定(76kW前後で推移)です。 |
表3.合計所要電力量の比較(年間ベース)
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表3を見ると、短時間運転での運用に対して長時間運転での運用のほうが2割ほど所要電力量が小さくなっています。
もっと大きな効果を期待しましたが意外と小さかったというのが正直な感想です。
また、予備冷却過程においては短時間運転と長時間運転の所要電力量の差がほとんど無く、だいたい同じである結果になりました。
算出過程が複雑な上、大ざっぱな仮定も多く信頼度は微妙ですが、 ひとまず現在の運用状況では短時間運転で運用した場合に対して1.5割ほどの節電効果が推定されました。 ささやかではありますが今後も節電に貢献できるよう努めてまいります。 |