既存の液体ヘリウム容器はメーカーによって開口部がそれぞれ異なった形状になっていました。 アタッチメント部分を交換するなど使い分ければ事足りるのですが、 利用者からバルブが付いているほうがいいと言う意見や装置によっては使用できない等の意見もありました。 そこで統一して使い勝手を改善する事を試みました。製作は汎用部品を用いてなるべく簡易にしました。 | ||
CRYOFAB 社 | AIRLIQUIDE 社 | CRYODIFFUSION 社 |
<構造> 既存の開口部フランジですが取り外してみると下部にはパイプが接続された独特な構造をしていました(下左写真)。 それぞれ太さや長さ、本数が異なっています。太いパイプの中に細いパイプが入った二重構造のものもありました。 当初はこのパイプがある意味を理解しておらず、パイプの無い単純にフランジにバルブを設けただけのものを製作して利用していました(下右写真)。 しかしこのパイプには非常に重要な役割がある事がわかりました。 ではパイプが有るのと無いのとではどう違いがあるのでしょうか。 |
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メーカー付属:パイプがある | 自作:何も考えていなかったのでパイプが無い |
・パイプが付いている場合 液体ヘリウム容器は開口部を大気にさらしたままにしてしまうと空気の吸引が起こります。 容器内は温度が非常に低いため吸引された空気は凝縮・固化してしまいます。 液を汲み出す上部開口部と蒸発したガスを回収する回収管からの吸引の場合を考えてみます。 下図のようにヘッドフランジに上部開口部(液取り出し口)と通じたパイプが設置してある場合、 空気の吸引による経路の閉塞が起こったとしても、パイプによって経路が2つ出来ているため全面的な閉塞を回避できます。 液取り出し口からの空気吸引はパイプの内側で、回収配管からの空気吸引はパイプの外側でそれぞれ部分的な閉塞が起こります。 パイプ内側は回収配管へはつながっていませんが安全弁を設けておけばここから圧力が放出されます。 |
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・パイプが無い場合 蒸発したガスが容器から外へ放出される経路が一つしかないので、 空気を吸引し固体空気が大きく成長してしまった場合は閉塞状態になってしまいます。 容器内では絶えず液体ヘリウムが蒸発していますので閉塞してしまうと内圧が上昇し続けてしまい破裂の危険が高まります。 頻繁に利用される容器でしたらトランスファーチューブや液面検量棒を挿入するので異変に気が付けますが、 検量さえされず放置された場合(管理上そんな事はありませんが)は起こり得る事です。 |
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実はこのパイプ無しのヘッドを長い事(7,8年?!)使ってきましたが、 危険な状態であった事に今さらながら動揺しています。 空気吸引の原因になる液取り出し口バルブの閉め忘れや回収配管の抜け落ちなどが起こらなかった事は 液体ヘリウム利用研究室の適正な管理によるものです。 日頃からの安全利用の徹底にとても感謝いたします。 | ||
<製作> 材料はごく普通に手に入るねじ込み継手やボールバルブ、ブランクフランジです。パイプはFRP(繊維強化プラスチック)という 熱伝導の極めて乏しい(冷気が伝って逃げないように)素材のものを使いました。 製作過程を写真でご紹介いたします。 旋盤加工:六角ニップルの加工 |
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FRP(繊維強化プラスチック)パイプの加工 | |||
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旋盤加工:ブランクフランジの加工 | |||
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ロウ付け加工 | |||
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パイプの接着 | |||
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フランジの形状違い:容器によってはフランジの規格が異なりました。 | |||
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<蒸発量> ところで、容器ヘッドを交換したことで中に溜まっている液体ヘリウムの蒸発量(安置時の自然蒸発量)は増えたりしているのでしょうか? もし付け加えたパイプが原因で蒸発量が激増しているようであるならばパイプの長さや形状など考え直さなければなりません。 早速、ヘッド交換後の蒸発量を調査して従前の蒸発量と比較してみました。 |
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液体ヘリウム容器の自然蒸発量 ヘッド交換前後の比較
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測定誤差の影響を小さくするため調査対象データは極低温室に安置していた時間が連続5日以上のものとしました(5日未満のデータは未参入)。 抽出したデータを合算し、容器サイズごとに蒸発率を算出しています。 表より変化率は0.95〜1.1程度と微小に蒸発量が増加した様子が伺えます。 ヘッド交換後のデータ量が交換前のデータ量に対して圧倒的に少ないため誤差等も考えると信頼度は低めですが 著しく蒸発量が増加した様子は無さそうでしたので安心しました。 (この後改良版を作製しました) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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<液面検量棒> 液体ヘリウムの液量はパイプ状の細い棒を挿入することで起こる気柱振動の振動数変化によって量ることが出来ます。 気層では振動は速く、液層では振動は緩やかです。液面検量棒を上下してみて振動数の変化する点が液面になります。 液面検量棒はパイプの端面にフィルムを貼って気柱振動を感じ易くしています。 フィルム面を指サイズくらいに拡大することでより感度を上げています。 容器底から開口部までの長さを液面検量棒にマークしておけば次回以降の測定では検量棒を底まで挿入しなくて済み、 検量による液体ヘリウムの蒸発をなるべく減らす事につながります。 |
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今回、容器のヘッドを変更したことにより既存の液面検量棒では長さが足りない容器がでてきてしまいました。 そこで液面検量棒も新たに製作しましたので、こちらも合わせてご紹介いたします。 | |||
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数年前までは液面検量棒にゴム栓を付けていない状態で検量していました。 開口部から出てくる白煙状の蒸発ヘリウムガスの様子を見て検量棒の挿入具合を確認していました。 あまり急激に挿入すると容器の中にある液体ヘリウムを過剰に蒸発させてしまいますので 白煙が激しく上ります。こうならないように挿入加減を調節します。 しかし空気が容器内へ入り込んでしまう事を避けるため、 開口部の開放はなるべく短く済ませたいという意識もあり、 ゆっくり慎重に行うわけにも行きませんでした。 そこで液面検量棒にゴム栓を装着することに変更いたしました。 これにより空気の容器内への侵入を極力防ぐ事ができ、かつ焦らずゆっくり量る事も出来ます。 白煙が見えないので検量棒の挿入加減は、加圧用バルーンの膨らみ具合で確認します。 バルーンが急激に膨らむということは内圧の上昇、つまり過剰な蒸発が起きているので検量棒の挿入速度が速過ぎます。 ちょっと上へ戻すか、または挿入を少し止めて落ち着くのを待ってから再び挿入します。 | |||
測定後、液面検量棒を抜き出す際には凍傷に注意が必要です。冷えた金属を素手で触るのは非常に危険です。 検量棒は全長の3/4程度までゴム栓を容器に固定したまま棒だけ抜き上げ、一旦止めて温まるのを待ちます(検量棒が1m以上も突き出すのでグラつきますが意外と倒れません)。 測定した液量をノートに記録する間にすぐ温まります。 検量棒の白い結露が引いたのを確認したら改めて取り外します。 参考「気柱振動による液面検量手順」 |