自作のHeトランスファーチューブについては以前から製作してきた内管3mm-外管5mm(以下3-5管、他サイズも同様)、4-6管に加えて数年前に6-8管を製作しました。 6-8管は蒸発損失が3-5管や4-6管並みに小さいまま、内径の大型化に比例して移送速度が大きくなり大成功のチューブでした。 そこで今回は、まだ製作した事のない周辺サイズのチューブを製作してみました。 これにより例えば、充填容量の大きな装置には太いチューブを、小さな容量の装置には細いチューブを、イニシャル(初汲み入れ)には細いチューブを、継ぎ足しには太いチューブを等、 多彩なサイズ展開によって様々な場面に対応し得ることが可能になり、作業効率の向上が期待できそうです。
 
<新作サイズ>
手元にある薄肉ステンレス管の在庫は外径3mm〜9mmまで1mm刻みで各サイズを保有しています。 そこで今回は今まで製作していなかった5-7管・7-9管サイズを製作しました。 これらのステンレス管をどんな経緯で購入したのか覚えてませんが、今まで肉厚が0.15mmや0.2mmの管で製作してきたのに対して、 今回使った7mm管は0.3mmのものしかなく「これでは硬くて使い物にならないかもしれない」という不安がありました。ひとまず物は試しで作ってみました。 また、せっかくなのでレギュラーサイズの3-5管と4-6管も合わせて製作しました。 ※ステンレス管は全て焼きなまし処理されたものを利用しています。
  製作したサイズ
内管径
(mm)
外管径
(mm)
備考
3 5 既作
4 6 既作
5 7 初製作
6 8 既作
7 9 初製作
 
各サイズを一堂に 端面の太さ比較
 
<スペックと使い勝手>
製作後早速、液体ヘリウム容器から液体ヘリウム容器へ移送試験を行いました。 まず、移送速度については平均加圧量に比例して大きくなる様子が見られます。 新作の7-9管、5-7管データは、既存の6-8管のデータ分布を挟むように分布しました。 7-9管は太いだけあって移送速度がさすがに大きいです。 よく見ると、チューブが太くなるにつれて傾きが大きくなる傾向が読み取れます。 3-5管や4-6管は寝そべった分布なのに対して、太くなるにつれてだんだん起き上がった分布になっています。 なかなか面白いですね。 ※平均加圧量:一回の移送での平均加圧量です。 初め小さく、加圧していき徐々に大きくなります。 一定値で落ち着いてからの経過時間も考慮して算出してます。 目分量なので精度は低くなってしまいます。参考程度に捉えています。
次に蒸発損失を示す浪費率(使用量/充填量)のグラフを見ますと、概ね既存のデータと混じり合った分布となっています。 太くなった分、熱容量も大きくなるので蒸発損失も増えると思われますが、それほど大きく現れてはいませんでした。 よく見ると最細の3-5管は蒸発損失が小さいので分布帯の左下側に多く、最太の7-9管は蒸発損失が大きいため分布帯の右上側にあることがわかります。 それなりに傾向は出ているようで面白いです。 なお、浪費率のグラフが不自然に縞模様になっているのは1L単位で液量を検量しているため、浪費率計算で特定の数値が算出されてしまう事によります。
 
移送速度は綺麗な相関関係がみられる 蒸発損失は大型化すると大きくなる傾向
 
さて、使用した7mm管の肉厚が0.3mmとやや厚いため懸念していた使い勝手ですが、 5-7管については想像していたよりかは柔らかいものが出来ました。まあまあ扱いやすくひとまず良かったです。 一方、7-9管は少しゴワゴワしていて、やはり硬いです。 最低限のフレキ性はあるので使えない事はありませんが、変な力がかかると接着部が割れるのではないかと心配になり慎重に使っている状況です。 以前製作した6-8管は内管外管ともに肉厚0.2mmのもので、使い勝手は悪くありませんでした。 今後もし薄肉管を入手出来るチャンスがあれば、5-7管、7-9管ともに肉厚0.2mmのパイプで、欲を言えば0.15mmや0.1mmのパイプで製作して、フレキ性に富んだ扱い易いものが出来るのか確認してみたいです。
 
移送試験の様子 太いながら底まで挿入できた
 
<改良点>
今回はベローズ接合部品の軽量化を念頭に、真空引き口が無いパーツの突起部分を無くしてみました(新作の3-5,4-6,5-7管)。 今まで何も考えずに元々の図面を踏襲して製作してきましたが、真空引き口が無い側は出っ張っている意味が無いと気が付きました。 ベローズをハンダ付けする際に、先行した銀ろう部分が熱で溶けないように距離をとった構造だったのかもしれませんが、ハンダ付けの温度では銀ろうは溶けません。 従って距離をとる必要は無く、この部分は無くすことにしました。
 
軽量化を図った改良型 3世代を並べる
 
また、今回はベローズ接合部品の内径を太くしました。 ベローズの内径と従来図面の寸法を比較すると余裕があり、ベローズの内側に隙間が残っていたのでその分太くしました。 太くしたメリットは、挿入される内管への負荷低減です。 内管は長さ4mの1本ものがあれば便利ですが、製作しているほとんどのチューブが、長さ2mのパイプを連結して4mとしています。 この連結部分はきれいにやったつもりでも微妙に歪んでしまうため(極端に言うと「く」の字のようになってる)、外管へ挿入する際に引っ掛かるなどネックとなります。 挿入した後、内管の連結部分が位置するベローズ接合部品の内径が狭いと常に圧迫されている状態となり、銀ろう付け箇所に応力がかかり続けることが心配されます。 そこで、少しでも部品の内径を大きくして連結部分のスペースを広くしてやれば、圧迫が緩んで負荷の軽減ができるのではないかと考えます。
 
歪んでしまう 切ってやり直すか迷う
 
<製作小ワザ>
以前編集したトランスファーチューブ2018では、ベローズの収縮量が製品の元サイズのままのストロークでも間に合っていると記載しましたが、 それでも余裕があることに越したことはないので、結局引き伸ばして使っています。 せっかくなので引き伸ばし方についてご紹介いたします。
まず、ベローズの端部にある襟状の部分が潰れないように守るため、これにはまる補助具を作りました。 当初コイン状のものを作っていましたが、突っ切りバイトでの切り落としが手間なので真ん中にドリルで穴をあけてリング状のものに変更しました。 次に引き伸ばしですが、単純に引っ張るのは大きな力が必要な上、指を痛めます。そして上手くいきませんでした。 そこで編み出したのが、上下前後に曲げて/戻してとクネクネ繰り返すと良い具合に伸ばすことが出来ました。 繰り返しやる事でどんどん伸びていきます。
ちなみに、ベローズは一つ一つ微妙に寸法の個体差があるので、あるベローズ用に製作した補助具が他のベローズに使えるとは限りません。 在庫しているベローズの内、補助具が合うものから使っていくのが良いです。 また、新たにサイズ違いの補助具を作ったら、次に使えるようベローズと一緒に保管しておくと便利です。
 
クネクネさせると伸び易い 引き伸ばし前後の比較と補助具
 
パイプカッターで薄肉のステンレス管をカットする場合、薄さゆえにカットした後、断面が内側へ歪んでしまいます。 そこで編み出したのが、内径に合わせたスペーサーとしてドリル刃を入れておくことです。 0.1mm毎にサイズがあるドリル刃セットを持っていれば非常に便利です。 ただしドリル刃にもパイプカッターによる痕がついてしまううので、刃の根っこ側(ドリルチャックに挟む側)を当てるのが良いです。 痕がついてしまう事について道具を大切にする人から怒られてしまうかもしれませんが・・。
次に、仕上げで行うチューブへのマークについてです。 曲げた後になってからマークをするには、円弧にメジャーを当てる事になり、やりづらい上に不正確になってしまいます。 そこでリークディテクターでの漏れ検査や一度目の真空引きの段階で、直管の状態でマークするのが楽です。 私はこれを毎回忘れるので、今更ながら記載して思い起こせるようにします。 ※マークについて:当施設では、液面棒(プルプル式)に容器毎の深さを油性ペンでマークしています。 自作トランスファーチューブにもこれと同じようにマークしています。 マークがあると「挿入量が足りなくて液中に届いていない」とか「底までつけてしまった」という問題回避に役立ちます。 ただし、油性ペンは薄くなるので適宜書き直しが必要となります。
 
支えにドリル刃 マークは曲げる前に行う
 
<資料>
新改良ベローズ接合部品の図面を保存します。
3-5管-部品図面 5-7管-部品図面 7-9管-部品図面
4-6管-部品図面 6-8管-部品図面