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山田篤志(准教授)

研究

強相関系の物理と近似法

相互作用が弱い系に対しては、摂動法や平均場といった近似が使えることが多いですが、相互作用が強くなると、これらの近似法が使えず、問題を解くこと、物理的な性質を予言すること、が難しくなります。このような相互作用の強い系として興味深いものの一つに、ハバードモデルがあります。これは、主に固体中の電子のふるまいを記述するために使われ、電子が、隣接する格子点(原子や分子)に飛び移れる効果と、同じ格子点上に来た時に、互いにクーロン相互作用のために反発しあう、クーロン斥力の効果を入れたものです。このように書くと、かなり単純なように思えますが、実際には、現実の物質に即して考えると、格子の形状も様々で、それによって多様な物性が得られそうで、いろいろな現象の本質をとらえているのではないかと思われてる、といってよいと思います。例えば、このモデルが、高温超伝導を記述出来るのではないかと考えられています。

相互作用が強かったり、斥力系での超伝導現象を記述するなどの場合には、摂動論や、単純な平均場近似が使えないため、このような場合に対処するために、摂動論や平均場近似を超えた、様々な興味深い近似方法が考えられていますが、特に、ハバードモデルに焦点を当てて、このような近似法や具体的な応用について研究しています。特に興味を持っているのは繰り込み群を応用した方法です。

場の理論の問題とくりこみ

水素原子では、ひとつの電子の状態を決めるとそれでエネルギー準位などの様子が決まります。電磁場 E(x) B(x) のようなものでは、空間各点での電磁場の様子を指定して初めて空間全体での電磁場の様子が決まります。このように空間各点での"場"の様子を決めて全体が決まるものを量子力学的に扱うのが量子力学的な場の理論です。このような理論に基づいて物理量を計算すると、答えが無限大になってしまって困るのですが、この無限大は、実は、くりこみという処方を用いて処理することができて、無限大から無限大を差し引いて意味のある形で有限な答えを予言することができます。このような計算はいいかげんに思えるかもしれませんが、電磁場を量子力学的に扱った量子電磁気学(QED Quantum Electro Dynamics) において詳しい計算がなされ、非常に高い精度で理論の予言と実験値が一致していて、精密科学といってよいもの、といわれています。そして、このくりこみは、実は、単に無限大を処理する処方というよりも、物理現象の様々側面、例えば相転移の問題、を理解する重要な考え方である事が判ってきました。 このくりこみの考えを実際に問題に適用していくやり方は様々ですが、1つのアプローチとして、とりあえず空間を格子状に区切って考えるものがあります。もし連続な空間での計算をしたければ格子の間隔をどんどん小さくしてゆくのです。これを格子場の理論というのですが、それ自身でも有用であり、いろいろな問題と可能性を含んだものです。例えば、強い相互作用におけるクオークの閉じ込め問題などを考えるときにも使うことができます。この問題の難しさの原因のひとつは、相互作用が強く近似が困難であることなのですが、格子場の理論では、相互作用がとても強い極限では良い近似法(強結合展開)があります。このように、おもに格子場の理論の方面から、くりこみその他の問題を考えてゆく研究を行っています。

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