教育研究活動
物理学科は、10の教育研究分野が相互に連携する形で運営されています。以下では、各分野ごとに、それぞれどのような教育研究活動が行われているかを紹介します。
素粒子理論
素粒子物理学は、物質の最も基本的な構成要素(素粒子)とそれらを支配する法則を探求しようとする学問です。 ゲージ場の量子論と呼ばれる理論的枠組みで記述される6種類のクォークとレプトンと呼ばれる物質粒子から物質は構成され、それらの間をゲージ粒子(フォトン、ゲージボソン、グルーオン)と呼ばれる力の伝達粒子が媒介することで、電磁力、弱い力、強い力が働いているというのが現在の素粒子の理解の到達点で、素粒子の標準模型と呼ばれています。 さらに重力にも量子論を適用しようとすると、弦や膜といった拡がった対象をも考えなくてはならないと考えられ精力的に研究されています。
3年生までは、どの分野に進んでも良いように物理学の基礎を一通り学びますが、 当研究室の卒業研究では、素粒子の研究に不可欠な場の量子論や一般相対性理論に関するセミナーを行います。 大学院に入ってからは、これらを基礎にして、具体的テーマを決めて研究を始めることになります。
現在、千葉大学素粒子論研究室では、場の量子論と弦の理論を用いた素粒子の理論的研究を行っています。現在の主要研究テーマは、
原子核物理学
我々の身の回りの物質(我々自身も含めて)は全て元素からできていると言ってよ
いでしょう。その元素はどのようにして作られたのでしょう?実はビッグバン以来の 宇宙の歴史の中で,原子核反応により合成されたのです。この原子核反応が超新星爆
発などの天体現象のエネルギー源にもなります。宇宙の歴史をたどり物質の起源を探 るためには,原子核の性質を詳しく知る必要があります。
では原子核ってどんなもの?100個程度の陽子と中性子が,強い相互作用を及ぼし合
いながらわずか原子の約1万分の1のサイズに凝縮し,量子力学の法則に従ってダイナ ミックに運動している,と言えばイメージしてもらえるでしょうか。私たちは,そん
な原子核の諸性質を,コンピュータも積極的に用いながら理論的に研究しています。 千葉大学では4年生での卒業研究でその一端に触れることができるほか,大学院(自
然科学研究科)に進学して最先端の研究に携わる学生も少なくありません。
近年,新しい実験技術の開発をきっかけに,超新星爆発の際などに一時的に生成さ
れる不安定な原子核の性質が詳しく調べられるようになり,その研究が日本・アメリ カ・ヨーロッパの間で競い合いまた協力し合いながら活発に進められています。私た
ちもこのような不安定核の構造の研究に理論的立場から深く関与しており,不安定核
に関する国内の学会や国際会議において千葉大学大学院生も大いに活躍しています。
研究している大学院生
宇宙物理学
宇宙を理解することは古代から人間の知的好奇心を刺激し続けてきた最大のテーマと言えるでしょう。本教育研究分野では,惑星系から超銀河団に至るさまざまな構造の形成と進化,とくに種々の天体で観測されている活動的現象(X線やガンマ線の放射,ジェットの噴出など)の起源を物理学の理論と人工衛星等による観測を通じて明らかにしていくことを目的としています。
超高温,超強重力といった,地上の実験室では実現困難な極限的な状況下で起こる天体現象を解明する上では,計算機の中に星や銀河のモデルを作ってその上でさまざまな数値実験(シミュレーション)を行うという計算物理学的な手法が有効です。そこで,数値実験のための計算手法の開発,数値実験結果の可視化方法の研究なども行っています。具体的な研究テーマを以下にあげておきます。
コンピュータによる宇宙ジェットのシミュレーション結果。
磁場に貫かれた回転円盤から高速ジェットが噴出している。
実線は磁力線。色の濃淡は密度分布を示す。
宇宙観測実験
素粒子に関する実験を中心に高エネルギー物理学・宇宙線物理学の面から研究しています。研究活動は学外の研究機関で主に行ない、素粒子を人工的に衝突させて性質や振舞いの研究や、宇宙より飛来する超高エネルギーのニュートリノから現在の宇宙の描像を研究しています。また、これらの研究で培われた素粒子の測定技術を応用して医療の場で使われる電子陽電子の対消滅を利用した画像診断装置(PET)の開発にも関わっています。現在の主要研究テーマは、
電子物性物理学
固体物質が示すさまざまな性質 ----
例えば,電気を流すか(導体)そうでないか(絶縁体),磁石につくか(強磁性)つかないか,といった性質 ----
は,その多くが物質を構成している電子の状態によって支配されています。通常の気温は固体中の電子達にとっては大変な低温であり,そのため量子力学に支配された磁気秩序,超伝導などさまざまな面白い現象が起こります。このような電子物性を理解することは,物理学の主要課題の一つとなっており,また,幅広い応用に結びついています。
私たちの教育研究分野では,電磁波を用いる磁気共鳴やレーザー光を用いる光散乱などの実験手段を用いて電子物性の理解を目指しています。0.05K程度の極低温から1000Kの高温まで広範囲の温度領域で,かつ,物質に高い圧力や強い磁場を加えて実験を行っています。
具体的には,次のようなことを研究しています。
光物性・量子伝導物理学
光を当てることによって物の性質を変えられたらいいなという動機で研究を行っています。例えば,コンピュータの中で演算や情報伝達に活躍している半導体に光を当てて磁性体に変えたり,もとに戻したりとか。そんな夢をもって研究しています。磁性体は記憶媒体に使われていますし,半導体は情報伝達を担っていますから,光で半導体を磁性体に変えることができれば,光の速度で,記憶したり情報を運んだりできそうです。そのような事ができるためには,やはり,光と物が関わり合う物理を基礎から理解する必要があります。
本研究室では,いろいろな色(赤,黄,緑,青,紫)で発振可能なレーザー,1兆分の1秒という超高速で生じる現象を測れるパルスレーザー,光のエネルギーを分解する分光器を用いて,物質の光応答を詳細に調べています。半導体結晶に磁性イオンを注入した希薄磁性半導体は,光による磁性制御を実現させる第一候補の物質です。この物質を非常に低温(液体ヘリウム温度)にし,超伝導磁石による強磁場印加のもとで,光を入射させ,磁性の出現を試みています。
超短パルス(1兆分の1秒)レーザーの調整風景
非線形・ソフトマター物理学
我々が日常的に目にする現象は科学の長い歴史の中で、そのほとんどが理解されてきたように思われるかもしれません。しかし、生命現象を含む多くの動的な現象は、そのメカニズムがまだ明らかとなっていません。その難しさは、系の非線形性(全体が個々の要素の和で表せない性質)や非平衡性(物質やエネルギーが流入・流出する性質)にあります。 非線形性・非平衡性が支配する現象は、ソフトマター系、流体系、化学反応系、生物系などに多く見られ、当研究室ではそれらの現象のダイナミックな秩序構造を理解すべく研究を進めています。現在の主な研究テーマは、非線形振動子の分岐現象、アクティブマターの対称性と運動性、パターン形成、界面ダイナミクス・ゆらぎ等です。µm〜mmの長さスケールで行う実験をベースに理論的解析や数値計算を組み合わせ、個々の系の秩序形成メカニズムの解明を進める中で、非線形・非平衡物理学の普遍的な知見を得ることを目指します。
強相関電子系物理学
この分野では,固体の中の電子の集団の振る舞いを理論物理学の方法を用いて研究し,高温超伝導など実験的に観測されている様々な特異な現象の発現メカニズムの解明を目指しています。「強相関電子系物理学」は,互いに強く相関しあいながら運動する多電子系の物理学を意味し,物性物理学分野のなかで最近最も注目されている一分野です。
ひとつの電子は,電荷とスピンというふたつの自由度を持っており,量子力学の法則に従って運動します。たくさんのこうした電子たちは,固体中で互いに相互作用することにより,超伝導とかスピンの秩序化とか電荷の結晶化といった多彩な現象を織りなします。我々は,量子力学に従う多電子系という多体問題を,理論物理学の手法や大規模数値計算の手法を駆使して解析し,そこに内在する普遍的構造を解き明かす研究を行っています。実に豊かで深遠な,いわば「汲み尽くすことができない深い井戸」の世界がそこにあります。
この分野に所属する学生は,大部分が大学院博士前期課程に進学し,高度な研究の経験を積んで社会に巣立っています。また,博士後期課程を終え理学博士の学位を取得し,理論物理学の研究者としてヨーロッパやアメリカで活躍している先輩もいます。
量子多体問題に関する4年生向け少人数セミナーの風景
シリコン表面上で,不純物原子(赤色)を頂点にしてナノスケール逆ピラミッド(黄色部分)が発生している様子のコンピュータシミュレーション。