磁性体の相転移、相図、フラストレーションに関わる問題は前世紀から研究されている古い分野と言えます。
フラストレーションのある現実的な模型を提案することは比較的容易である為、この手の研究においては問題設定能力はあまり重要ではありません。
一方、与えられた模型の熱平衡状態(基底状態)を如何に求めるか、という点で理論家の力量が試されます。
(1)相図を求めるというテーマが、長い歴史の中で発展した平衡統計力学の様々な解析方法(場の理論、繰り込み群、変分法、各種展開法、など)や数値的方法(モンテカルロ法、動的平均場、数値対角化法、密度行列繰込群、など)の格好の応用対象であることと、(2)何と言っても平衡系の相図は多体系を理解する上での基本中の基本である、ということから未だに多くの研究者に魅力を与えている分野と言えます。
実際、アイディア次第で現在でも基礎的で興味深いテーマを発掘することもできます。

我々はこれまで現実的で単純な模型で起こる多くの新秩序と相転移を明らかにしてきました。 交替磁場が誘導する相転移(Cu-benzoateなど)、ベクトルカイラリティ秩序(ラダー物質など)、スピンチューブ(CsCrF4など)のカイラリティ液体プラトー相、J1-J2スピン鎖(LiCuVO4など)のNeel-dimer多重相転移とHaldanedimer相、磁場中3角格子反強磁性体(Cs2CuBr4,Kappa(ET)2Cu2(CN)3など)において弱い摂動で発生するスカラーカイラル秩序やネマティック秩序、空間異方性のある3角格子イジング模型において微小な次近接相互作用が誘起するキンク励起の準長距離秩序化、J1-J2スピン鎖が弱く結合した3次元磁性体(LiCuVO4など)において低温で生じるスピン密度波相とスピンネマティック相を含む定量的な温度磁場相図(右図)などが代表的な成果と言えます。
参考文献
- M. Sato and M. Oshikawa, Phys. Rev. B 69, 054406 (2004)
- M. Sato and T. Sakai, Phys. Rev. B 75, 014411 (2007)
- M. Sato, Phys. Rev. B 75, 174407 (2007)
- M. Sato, Phys. Rev. B 76, 054427 (2007)
- T. Sakai et al., Phys. Rev. B 78, 184415 (2008)
- T. Sakai et al., J. Phys.: Condens. Matter 22, 403201 (2010)
- K. Okunishi et al., Phys. Rev. B 85, 054416 (2012)
- S. Furukawa, M. Sato, and A. Furusaki, Phys. Rev. B 81, 094430 (2010), Editors’ Suggestion
- M. Sato, S. Furukawa, S. Onoda, and A. Furusaki, Mod. Phys. Lett. B 25, 901-908 (2011)
- S. Furukawa, M. Sato, S. Onoda, and A. Furusaki, Phys. Rev. B 86, 094417 (2012), Editors’ Suggestion
- M. Sato, T. Hikihara, and T. Momoi, Phys. Rev. Lett. 110, 077206 (2013)
- M. Sato, N. Watanabe, and N. Furukawa, J. Phys. Soc. Jpn. 82, 073002 (2013)