冷却原子系は比較的最近実現した人工的な量子力学系です。 大量の原子をレーザーを用いてトラップすることが可能であり、そのような系は量子多体系と見做すことができます。 すなわち、トラップされた冷却原子気体は、身近に存在する固体、液体、気体系とは別の新しい量子多体系の舞台を提供しています。 冷却原子気体系では、空間次元性、格子の形状、相互作用の強さ、内部自由度などを自在に変化させることができ、これは固体電子系にはない優れた特性です(この特性に甘えて、人工的な模型を解く理論研究が大量発生してしまった、という側面もあります)。 一方で、その実験手段はまだまだ貧弱であり測定できる物理量も非常に限られます。 長い歴史を持つ固体物性研究の実験手段の方が、精度・手軽さ・種類などの面で圧倒的に優れています(実際、世界中で数えるほどの研究グループでのみ冷却原子気体の実験が可能です)。 従って、冷却原子の量子多体系の理論研究をするのであれば、固体電子系の真似をするのではなく冷却原子系ならではの切り口を見つけ出すことが研究の価値を高める上で重要だと個人的に感じます。
このような志に見合う成果は今のところ出せていませんが、我々はこれまでの研究で、固体では実現し難い幾つかの予言を得ています。
- 葉巻型ボーズガスにおいて、閉じ込めポテンシャルの強さと粒子数密度が誘起する自発的回転現象の予言。
- 2成分ボーズ・フェルミガスにおいて、異成分間斥力が誘導する自発的に成分間密度差が発生したインバランス相(強磁性液体相ともいえる)へ量子相転移の解明。
- 一般の奇数成分(3成分以上)の1次元原子ガス系において、異成分間ホッピングと異成分間斥力が引き起こす自発ループ流秩序と原子密度の3重積秩序を持つ新量子状態の予言。
- 3次元スピン1ボーズガスの2種類の4極子相におけるスペクトル関数と密度及びスピン動的構造因子の波数・振動数依存性の解析、及びそれら構造因子による2種の4極子相の特徴付け。
参考文献
- A. Tokuno and M. Sato, Phys. Rev. A 78, 013623 (2008)
- S. Takayoshi, M. Sato, and S. Furukawa, Phys. Rev. A 81, 053606 (2010)
- T. Suzuki and M. Sato, arXiv:1505.06592 など