セミナー Seminar

2019年度セミナー@茨城大


セミナーは通常E棟E305室、第5,6,7講義室などで実施します。
アクセスについては素粒子理論のページ(研究室へのアクセス) を参照ください。

  • 村上 修一 氏 (東京工業大学 理学院物理系) 2020年1月27日(月) 16:00~ E棟7番講義室 (第12回QLCセミナーとして開催)

    トポロジカル物質科学の展開

     トポロジカル絶縁体の発見を契機として、トポロジカル物質の研究が理論・実験両面で精力的に進められている。本講演ではトポロジカル物質科学の進展について概観し、特に我々の観点から進めているトポロジカル物質に関する理論展開と、それに基づく物質探索を紹介する。時間がゆるせば、非エルミート系でのバンド理論とトポロジカル相の話題を紹介したい。


    • 北村 想太 氏 (東京大学 工学系研究科物理工学専攻) 2019年10月30日 15:00から E棟6番講義室 (第6回QLCセミナーとして開催)

      空間反転対称性の破れた系における非相反トンネリング現象

       固体が電気を流す/流さないといった性質は量子力学が本質を担う現象の一つである。中でも、絶縁体に強い電場を印加した際に起こる降伏現象は、量子力学的なトンネリングによって生じる、電子の波動としての側面を色濃く反映した非摂動効果であり、古くから幅広い文脈で研究されてきた。本セミナーでは、空間反転対称性の破れた絶縁体でのトンネリング現象を考え、その幾何学的な側面および帰結として生じる非相反性について議論する[1]。

       ここでいう非相反性とは、電場を右向きに印加したときと左向きに印加したときとでトンネリング確率が異なる値を取ることを指す。このような特性は半導体のpn接合等にも見られるが、バルクの結晶でこうした非対称性を引き起こせるかどうかは自明ではない。たとえ結晶が空間反転対称性を破っていたとしても、時間反転対称性がある限りはバンド分散に非対称性は現れないためである。トンネリング確率を与える公式として広く知られるLandau-Zener公式は系のエネルギー分散のみで特徴づけられており、一見非相反性は生じ得ないように思われる。

       セミナーではまずバンド絶縁体のトンネリング確率の理論がどのように発展してきたのかを概説し、特に幾何学位相に起因する効果について詳説する。続けてその物理的意味を、近年盛んに研究が行われているシフトカレントと呼ばれる非線形光学効果に絡めて議論し、トンネリング確率の非相反性が波動関数の幾何学的な性質を通して生じることを明らかにする。

      参考文献:
      [1] S. Kitamura, N. Nagaosa, and T. Morimoto, arXiv:1908.00819.


    • 多田 靖啓氏 (東京大学 物性研究所) 2019年8月7日 15:30から E棟5番講義室 (第3回QLCセミナーとして開催)

      自発的に試料端に流れるカレントについて ~超流動体・超伝導体や強磁性体でどのように観測されるのか~

       電磁気学の教科書を紐解くと、磁化電流と呼ばれる、磁性体の表面を流れる電流である「エッジカレント」が登場する。この電流は等価電流とも呼ばれ、通常の磁性体ではスピンが磁性を担っているということを、電流の言葉で表現している。ところが、磁性体には一般的に軌道自由度もあり、そこでは磁化電流自体が本質的であると考えられている。本セミナーでは、そのような軌道自由度由来のエッジカレントについて、2つの系に注目して議論する。

       最初に考えるのはカイラル超流動体・超伝導体と呼ばれる、フェルミオンが自発的に回転しながら粒子対を作っている系である。この系は、粒子対回転のためにエッジカレントが存在し強磁性体と類似性が高い。そのような状態は3Heで実現している他、Sr2RuO4などの候補物質がいくつか知られているが、エッジカレントが実験的に観測されたことはなく、理論的にも論文によっては計算結果が何桁も異なっている。セミナーではこの問題を一から考え直し、これらの系におけるエッジカレントの基本的性質について議論したい[1]。

       次に考えるのは強磁性体のエッジカレントであるが、こちらも非常に長い研究の歴史があるにもかかわらず、軌道自由度由来のエッジカレントが観測されたことは一度もない。セミナーでは、ワイル半金属Mn3Snにおける弱い強磁性に対応するエッジカレントの直接観測について議論する[2]。時間があれば、トポロジカル光波と呼ばれるレーザーを用いたエッジカレントの制御の可能性についても紹介したい[3]。

      参考文献:
      [1] Y. Tada, W. Nie, and M. Oshikawa, PRL 114, 195301 (2015); Y. Tada, PRB 94 214523 (2018); 多田靖啓, 日本物理学会誌 第74巻 第2号 93 (2019).
      [2] M. Shimozawa et al., in preparation.
      [3] H. Fujita, Y. Tada, and M. Sato, New J. Phys. 21, 073010 (2019).


      • 村上 雄太 氏 (東京工業大学 理学院物理学系) 2019年6月12日 15:30から E棟6番講義室

        周期的励起が駆動する相関電子系の物性~Mott絶縁体における高次高調波発生と超伝導の光誘起ダイナミクス~

         物質を強い外場で駆動すると、物性の高速操作、平衡では得難い新しい視点の獲得、そして様々な興味深い非線形現象が実現する。本セミナーでは、まず相関電子系の非平衡ダイナミクスに関連したいくつかの最近の話題を紹介し、この分野を概観する。そして、近年話題となっている固体中の高次高調波発生(HHG)と超伝導(SC)の光誘起ダイナミクスに関する我々の研究を紹介する。

         HHGとは、周波数Ωの光で物質を励起するとnΩの光が放出される現象である。古くは原子ガスに対して観測されていたが、近年固体中でもHHGが確認され話題を呼んでいる。本セミナーでは、非平衡動的平均場理論を用いたHubbard模型の解析を通して、強相関系であるMott絶縁体からのHHG発生の可能性とその起源を議論する[1]。特に、光励起によって生成されたダブロンとホロンの運動の外場に依存した定性的な違いを反映して、強電場側と弱電場側ではHHGスペクトルの構造が定性的に異なることを明らかにする。さらに、半導体との違いや類似性も議論する。

         SCに関しては、フォノンの共鳴励起に伴う光誘起SCを示唆する光学応答の観測が話題を呼んでおり[2]、その起源に関して様々な理論提案がなされている。本セミナーでは、これらの提案のうち非線形フォノン間結合を介した電子系の有効引力増強のシナリオに関する我々の研究結果を紹介する[3]。励起下の実時間ダイナミクスと非平衡定常状態の解析を通して、フォノン励起により電子間の有効引力は増強されるが、先行研究の指摘に反してフォノンダイナミクスを経由した電子の熱化のためSCが弱まることを明らかにする。

        参考文献:
        [1] Y. Murakami, M. Eckstein and P. Werner, PRL 121, 057405 (2018).
        [2] M. Mitrano et al., Nature 530, 461 (2016).
        [3] Y. Murakami et al, PRB 96, 045125 (2017).


      • 布能 謙 氏 (理化学研究所 開拓研究本部) 2019年4月24日 15:30から E棟6番講義室

        量子速度限界と断熱過程のショートカットに関する最近の話題

         量子速度限界(quantum speed limit, QSL)とは、量子操作に必要な時間の下限を与える普遍的な不等式であり、ハイゼンベルクの時間・エネルギー不確定性関係の厳密な定式化と捉えることもできる。QSLはこのように、量子力学の基本原理に密接に関係した関係式であり、システムに依存しないユニヴァーサルな関係式であるため、量子計算、メトロジー、量子最適制御、量子熱力学といった、様々な分野に応用されてきた。

         一方、断熱過程のショートカット(shortcuts to adiabaticity, STA)とは、有限時間で量子系を制御する手法の一種である。このテクニックを使うと、量子断熱発展を有限時間でショートカットすることができ、量子プロトコルを効率的にスピードアップできることが知られている。そのため、STAを活用し、有限時間で量子操作や熱機関を効率的に実装する方法について、活発な研究が行われてきた。

         本セミナーでは、量子速度限界(QSL)と断熱過程のショートカット(STA)という、最近特に注目を集めている二つのトピックスについて、量子状態の幾何学というキーワードをベースにして紹介する。そして、これらのトピックスと量子熱力学の関係性について、自分が携わった研究の発表を行う[1-3]。一つ目の研究[1]では、STAを実装して量子操作を加速したときに必要な熱力学的仕事について説明する。その際、STAによって余分な仕事は期待値のレベルでは必要ないが、操作時間と仕事ゆらぎの間にユニヴァーサルなトレードオフ関係があることを示す。二つ目の研究[2,3]では、開放系のQSLの定式化を行い、操作スピードの限界が、熱力学で現れる物理的な量によって制限されることを説明する。

         これらの研究はQSL, STA, 量子熱力学といった異なる分野の間の思わぬ結びつきを示唆し、非平衡な量子ダイナミクスの制御手法へのさらなる理解が期待される。

        参考文献:
        [1] K. Funo, et. al., PRL 118, 100602 (2017).
        [2] N. Shiraishi, K. Funo, and K. Saito, PRL 121, 070601 (2018).
        [3] K. Funo, N. Shiraishi, and K. Saito, New J. Phys. 21, 013006 (2019).