セミナー Seminar

2021年度セミナー@茨城大


今年度のセミナーはzoomでリモート開催の場合が多いです。 例年は、E棟E305室、第5,6,7講義室などで実施しています。
アクセスについては素粒子理論のページ(研究室へのアクセス) を参照ください。

  • 森 貴司 氏(理研) 2021年8月20日 15:00からzoom (第26回QLCセミナーも兼ねる)

    開放量子多体系の緩和時間の固有値解析

     開放量子多体系のダイナミクスはLiouville演算子によって生成される。Liouville演算子の固有値の実部は対応する固有モードの減衰率を与えるため、非ゼロの固有値のうち最も0に近い固有値の実部(Liouvillianギャップ)の逆数が最大緩和時間を与えると考えられてきた。しかし、Liouvillianギャップから求められる最大緩和時間よりも、実際に時間発展方程式を解くことで得られる緩和時間の方がずっと長い例が以前から報告されていた[1]。この問題をギャップ不整合問題という。

     私たちは、Liouville演算子の固有値だけでなく、右固有ベクトルと左固有ベクトルの構造が開放量子多体系の緩和時間に影響することを見出した[2](同様の議論は芳賀らの論文[3]でもなされている)。特に、右固有ベクトルと左固有ベクトルのオーバーラップが小さい時に緩和の遅れが生じ、そのことがギャップ不整合問題を解く鍵となる。私たちはLiouville演算子の固有値解析から緩和時間を与える新しい公式を導き、それが実際の開放量子多体系の緩和時間と整合することを数値的に確認した。

     また、このようなギャップ不整合問題は開放量子系に限らず、古典Markov過程でも一般的に生じる問題である。そこで、古典系における準安定状態の緩和時間の解析に私たちの新しい公式を適用した結果も紹介する[4]。

    参考文献:
    [1] M. Znidaric, Phys. Rev. E 92, 042143 (2015).
    [2] T. Mori and T. Shirai, Phys. Rev. Lett. 125, 230604 (2020).
    [3] T. Haga, M. Nakagawa, R. Hamazaki, and M. Ueda, arXiv:2005.00824.
    [4] T. Mori, arXiv: 2102.05796.


  • 多田 靖啓 氏 (広島大学) 2021年5月26日 15:00からzoom (第21回QLCセミナーも兼ねる)

    強相関ディラック電子系における磁場誘起量子臨界現象と反磁性

     固体物質においては、グラフェンなどのように、ディラック的な線形分散をもったバンド構造が実現することがある。とくに近年、物質開発の進展によって電子間相互作用が重要になるようなディラック物質が相次いで発見され、精力的に研究が行われている。理論的には、相互作用の短距離成分によって引き起こされる半金属-絶縁体量子相転移などについて多くの研究があり、高エネルギー物理学におけるカイラル相転移との関係からも興味が持たれている。一方、例えばグラフェンが強い軌道反磁性を示すように、一般的にディラック電子系の軌道自由度は磁場に対して敏感である。このことは、電子間相互作用の下で、軌道磁場によって物性をコントロールできる可能性を示唆している。

     このような背景を踏まえて本セミナーでは、強相関ディラック系における、磁場で誘起される電荷密度波相転移[1]と磁場中の軌道反磁性[2]について、密度行列繰り込み群による数値計算を紹介する。とくに、秩序変数や軌道磁化がゼロ磁場での量子臨界点近傍でどのように振る舞うのかに着目し、関連する他の現象とのアナロジーを明らかにすることを通して、その理解を深めたい。

    参考文献:
    [1] Y. Tada, “Quantum criticality of magnetic catalysis in two-dimensional correlated Dirac fermions”, Phys. Rev. Research 2, 033363 (2020).
    [2] Y. Tada, to be submitted.


  • 大上 能悟 氏 (Imperial College London) 2021年4月27日 15:00からzoom (第20回QLCセミナーも兼ねる)

    表面・界面で不均一性が誘発する光学現象たち

     物質の表面・界面でバルクと異なる特性が見られるのは、Pauliが「神はバルクを創った。表面を作ったのは悪魔だ。」と形容した通りだが、物性物理の文脈だけでなく、光学においても表面・界面に特有の効果が発現する。本セミナーでは、表面・界面の不均一性が誘発する光学現象を2つのトピックスを紹介する。

     1つ目のトピックは、不均一逆ファラデー効果によるスピン輸送 [1]。媒質の界面で光が全反射するとき、入射光が透過側媒質にエバネッセント場という表面状態を発生させる。電磁場解析によると、この表面状態はある種の円偏光になっている。これにより、媒質中に逆ファラデー効果由来の不均一磁場が誘発される。不均一磁場下では、Stern-Gerlach機構で、電子スピン流が発生する。

     2つ目のトピックは、界面の非平衡ダイナミクスによる非対称回折 [2] とVavilov-Čerenkov放射 [3]。媒質の界面に周期的凹凸があると、光の反射・透過において、回折パターンが観察される。凹凸がダイナミカルに変化する場合は、これを反映したDoppler-likeな周波数シフトも発生する。静的な凹凸からは対称な回折パターンが発生するが、動的な凹凸からは非対称な回折パターンが生じる。これは時間・空間の自由度の絡み合いによるものである。ダイナミクスが超光速の場合、回折対称性の破れに加えて、Vavilov-Čerenkov放射が発生する。

    参考文献:
    [1] D. Oue & M, Matsuo “Optically induced electron spin currents in the Kretschmann configuration,” Phys. Rev. B 102, 125431 (2020).
    [2] D. Oue, K. Ding & J. B. Pendry “Calculating spatiotemporally modulated surfaces: a dynamical differential formalism,” arXiv:2104.00614v1 [physics.optics] (2021).
    [3] D. Oue, K. Ding & J. B. Pendry “Vavilov-Čerenkov radiation in the vacuum from a superluminal grating,” to be submitted (2021).