セミナー Seminar

2022年度セミナー


今年度のセミナーはzoomでリモート開催の場合が多いです。 対面の場合は、理学部2号館物理会議室などで実施しています。
アクセスについては千葉大キャンパスマップ を参照ください。

  • 池田 達彦 氏(理化学研究所 研究員 / JSTさきがけ研究者) 2023年3月16日15:00から物理会議室

    固体物質におけるフロケ状態の形成とその物性 ―理論と実験―

     高強度レーザーの技術が著しく進展し、これを固体物質に照射して物性を高速に変化させたり制御したりする研究に注目が集まっている。こうして生じた物性変化は、レーザー電磁場で駆動された物質中電子の(通常の線形応答を超えた)非摂動かつ非線形な応答の帰結として観測される。物性制御の応用的観点からも、電子の非平衡ダイナミクスという基礎物理学的観点からも、興味深い問題である。本セミナーでは特に、レーザー電磁場の時間的周期性という側面が重要になる物性制御、いわゆるフロケ・エンジニアリング(レビューとして文献 [1]を参照)を軸に最近の研究を紹介する。

     本発表ではまずフロケ理論を概説し、この理論に立脚して有効ハミルトニアンエンジニアリング [1]や高次高調波発生などの非線形光学効果が統一的に把握できることを議論する。実際の実験においては強いレーザーはパルスで実現し、それゆえフロケ理論の仮定する時間周期性は近似的にしか成り立たない。しかしこのような状況下においてもフロケ状態は、瞬時的な状態基底として用いることでダイナミクスの理解に役立つ [2]。そしてこのようなフロケ状態の形成とダイナミクスを示唆する最新の実験 [3]を紹介する。また時間が許せば関連する研究として、3次元ディラック半金属候補物質におけるフロケ物理の最新の結果 [4,5]についても紹介する。

    [1] T. Oka and S. Kitamura, Annual Review of Condensed Matter Physics, 10, 387 (2019).
    [2] T. N. Ikeda, S. Tanaka, and Y. Kayanuma, Phys. Rev. Res. (2022).
    [3] K. Uchida, S. Kusaba, K. Nagai, T. N. Ikeda, and K. Tanaka, Sci. Adv. 8, eabq7281 (2022).
    [4] B. Cheng*, N. Kanda*, T. N. Ikeda, R. Matsunaga et al. Phys. Rev. Lett. (2020).
    [5] Y. Murotani*, N. Kanda*, T. N. Ikeda, R. Matsunaga et al., Phys. Rev. Lett. (2022).


  • 江島 聡 氏(Institute of Physics, University of Greifswald) 2022年7月8日16:00から物理会議室

    時間依存密度行列繰り込み群を用いた非平衡ダイナミクスの研究

     強相関物質における非平衡ダイナミクスの実験は、複雑な秩序状態の生成や特徴付けができることから近年大きな注目を集めている。理論の面からも非平衡ダイナミクスを観測するために様々な手法が用いられている。本講演では、近年発展著しいテンソルネットワークの手法を用いて光照射後の静的相関関数やダイナミクスを観測する手法を説明し、これを1次元モット絶縁体[1,2]や励起子絶縁体[3]に適用し、光誘起による絶縁体–金属転移の可能性を追求する。

     まず最初に並進対称性のある一次元系を考慮し、無限系の行列積状態[infinite matrix-product state (iMPS)]を用いて基底状態・エネルギーを計算できるiTEBD法[4,5]を再考する。そして、このiMPSを利用して無限境界条件[infinite boundary conditions (IBC)][6]を適用し、直接熱力学的極限で非平衡ダイナミクスを計算する方法[2]を紹介する。

     そして最初の例として、これらの手法を一次元モット絶縁体に適用することにより、近年提起された「光誘起されたηペア状態」[7]を議論する。ηペア状態に関連するペア相関関数は、ポンプパルスの振幅と振動数に大きく依存することを示し、ηペア励起に理想的なパルスの条件を求め、光誘起後のモット絶縁体の非平衡ダイナミクスを議論する。特に時間・角度分解光電子分光法の実験に対応する時間依存一粒子スペクトルにおいて金属状態を観測する可能性を追求する[2]。

     時間が許せば一次元拡張Falicov-Kimball模型においても上記のモット絶縁体と同様の議論ができることを紹介する[3]。

    参考文献:
    [1] S. Ejima, T. Kaneko, F. Lange, S. Yunoki and H. Fehske, Phys. Rev. Res. 2, 032008(R) (2020)
    [2] S. Ejima, F. Lange and H. Fehske, Phys. Rev. Res. 4, L012012 (2022)
    [3] S. Ejima, F. Lange and H. Fehske, arXiv:2204.09085 (to be published in PRB)
    [4] G. Vidal, Phys. Rev. Lett. 98, 070201 (2007)
    [5] R. Orus and G. Vidal, Phys. Rev. B 78, 155117 (2008)
    [6] V. Zauner, M. Ganahl, H. G. Evertz and T. Nishino, J. Phys.: Condes. Matter 27, 425602 (2015)
    [7] T. Kaneko, T. Shirakawa, S. Sorella and S. Yunoki, Phys. Rev. Lett. 122, 077002 (2019)