強相関電子系とは
学部3年生の皆さんに「強相関電子系」とは何か、説明を試みましょう。
皆さんは私の統計力学演習で「自由電子ガス」というのを習いました。 それは、体積Vの箱に入った互いに相互作用しないマクロな数の電子たちの集団でした。
質量mの古典自由粒子系というのは気体分子運動論でお馴染みで、理想 気体の状態方程式PV=NkTというのが出てくる。 これ導けますね? 忘れた人はもう一度問題集「演習で学ぶ統計力学」を勉強しましょう!
さて、その各粒子が量子力学に従って運動するとき、事態は古典系とまるで違ってくるのだった。 電子はフェルミオン(2個の電子を入れかえると波動関数の符合が変わる)だから、パウリ原理というのが本質的役割を果たす。 量子統計法の世界です。 覚えてますね?
そしてこの自由電子ガス模型で、(量子力学誕生以前にはまったく理解できなかった)あの不思議な(どこが不思議か覚えてますか?)金属内電子の大体の性質が分かるのだった。 ゾンマーフェルトらの功績です。 演習では、自由電子ガスの熱容量とかスピン帯磁率とかの温度依存性を計算しました。 今でも計算できますか? すっかり忘れてしまったなんて言わないでね。 試験問題でいえば、これとかこれに関連する所です。
さてところがですねぇ、電子は電荷eを持っている。 だから「互いに相互作用しない」なんてありえない! そう思いません? 考慮したのは パウリ原理だけですよ? こんなんで実験に大体合うなんてそんな無茶な・・・。 実はここの所は、「ランダウのフェルミ流体論」というのがあって、それなりに正当化されてます。 またいつかこれのセミナーでもしましょう。
でもやはり、そういう訳にはいかない場合も多々あるんですよね。 電子間のクーロン相互作用が、電子系の性質に本質的かつ決定的な効果をもたらす場合が。これが「電子相関」と呼ばれている問題です。
この辺のところを徹底的に研究して事態を明らかにしようというのが、強相関電子系と呼ばれる研究分野がやっていることです。 ということですから、長~い歴史を持った重厚な分野です。 山ほどの教科書が書かれています。 これでノーベル賞を取った人が何人もいます。
で、この長~い歴史の一点に、1986年の高温超伝導の発見というのがあった。 これが、それまでの電子相関研究に本質的なインパクトを 与えてしまったんですね。 それ以来、この分野は大発展を遂げました。 これは現在も続いています。 なぜって、まだ依然として高温超伝導の本質が分からないから。 これに関連した分野の研究も大変盛んになりました。 沢山の研究者が、現在もこうした問題に取り組んでいます。
といったところで、とりあえず説明終り。 でもなんか全然遠いですね。 もっと知りたい人は太田研に来て下さい。