強相関電子系理論研究室(太田研究室)千葉大学大学院理学研究科
千葉大学理学部

研究成果の一部(絵がきれいなもの)

Ta2NiSe5における励起子凝縮の理論

励起子ボーズ凝縮とは、ギャップの小さな半導体やバンドの重なりが小さな半金属という少数キャリア系において、十分に遮蔽されないクーロン相互作用が励起子の形成を促し、それが低温においてマクロな位相のコヒーレンスを保ち量子凝縮した状態である。 半金属では凝縮は超伝導のBCS理論と類似の枠組みで記述され、半導体ではpreformed pairのボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)として記述される。 これを実現する候補物質として、最近、遷移金属カルコゲナイドTa2NiSe5が注目を集めている。 この系の電子状態の解明のため、第一原理計算にから得られた強相関模型を用いてTa2NiSe5の励起子ボーズ凝縮の機構と高圧下超伝導の定量的解明を行っている。

  • T. Kaneko, T. Toriyama, T. Konishi, and Y. Ohta, Phys. Rev. B 87, 035121 (2013); 87, 199902(E) (2013)
  • T. Kaneko, T. Toriyama, T. Konishi, and Y. Ohta, J. Phys.: Conf. Ser. 400, 032035 (2012)

Ta2NiSe5の励起子凝縮におけるミクロな量子干渉効果

スピン一重項励起子系の有力な候補物質Ta2NiSe5に関して、ミクロら量子干渉効果の結果、超音波吸収係数の温度依存性にコヒーレンスピークが現れること、しかしNMR緩和率のそれには現れないことを予言した。 また、比熱や弾性定数の温度依存性に現れる異常を明らかにした。 これらの予言は、Ta2NiSe5が励起子凝縮系であることを実験的に証明する鍵となる。

  • K. Sugimoto, T. Kaneko, and Y. Ohta, Phy. Rev. B 93, 041105(R) (2016)

有限温度VCAによるTa2NiSe5における励起子凝縮の理論

励起子絶縁体の有力な候補物質であるTa2NiSe5の一粒子励起スペクトルを、有限温度VCAの手法で計算(下図)しARPES実験の結果(上図)と比較した。 転移温度より上でも観測されるフラットバンド構造を含め、実験と理論の良い一致が見られる。 この結果は、この系の励起子凝縮を考える上で極めて重要である。

  • K. Seki, Y. Wakisaka,T. Kaneko, T. Toriyama, T. Konishi, T. Sudayama, N. L. Saini, M. Arita, H. Namatame, M. Taniguchi, N. Katayama, M. Nohara, H. Takagi, T. Mizokawa, and Y. Ohta, Phy. Rev. B 90, 155116 (2014)

励起子凝縮におけるBCS-BECクロスオーバー

拡張Falicov-Kimball模型の2層系における励起子凝縮を少数系の厳密対角化の方法で計算し、そこで発現するBCS-BECクロスオーバーの起源を解明した。

  • T. Kaneko, S. Ejima, H. Fehske, and Y. Ohta, Phys. Rev. B 88, 035312 (2013)

1次元拡張Falicov-Kimball模型のDMRGによる研究

励起子凝縮系の基本模型である1次元拡張Falicov-Kimball模型の基底状態(左図)および低エネルギー励起構造(右図)を密度行列繰り込み群(DMRG)等の手法を用いて解明した。

  • S. Ejima, T. Kaneko, Y. Ohta, and H. Fehske, Phys. Rev. Lett. 112, 026401 (2014)

相関Bernevig-Hughes-Zhang模型における反強磁性トポロジカル絶縁体相

ハバード型電子相関を考慮したBernevig-Hughes-Zhang模型を自己エネルギー汎関数理論に基づく変分クラスター近似により解析し、反強磁性長距離秩序とトポロジカル絶縁性が共存し得ることを明らかにした。

  • S. Miyakoshi and Y. Ohta, Phys. Rev. B 87, 195133 (2013)
  • S. Miyakoshi and Y. Ohta, JPS Conf. Proc. 3, 016011 (2014)

ホランダイト型遷移金属酸化物K2Cr8O16における完全強磁性パイエルス絶縁体

ホランダイト型と呼ばれる結晶構造を持つ遷移金属の酸化物 は,ナノサイズのトンネル構造(下図)を持ち,リチウムやセシウムといったイオンがトンネルを自由に出入りできるため,電池の電極材料やイオンの吸着材料として利用が検討されています。 また,電気伝導性や磁性に特異な性質を発現するため,物性物理学の世界でも近年大きな関心を集めています。 最近,クロムのホランダイトK2Cr8O16が,絶対温度180Kで常磁性金属から強磁性金属に転移し,さらに95Kで強磁性を保ったまま絶縁体に転移することが発見されました。 強磁性金属から強磁性絶縁体への転移はこれまで例がなく,その起源には大きな関心が集まりました。 私たちは,この物質に対して理論計算を行い,クロムの価電子のスピンが2重交換と呼ばれる機構でフルに分極した完全強磁性状態になること,また95K以下の温度では,「電子のスピン自由度が役割を果たさないパイエルス転移」というこれまで知られていなかった機構によりバンドギャップが開き,強磁性を保ったまま絶縁体になることを明らかにしました。 その成果はPhysical Review Letters誌に2件の論文として出版され,また新聞2紙に取り上げられるなど,大きな注目を集めています。 私たちは現在,トンネル構造を持った関連する他の遷移金属化合物の物性研究にも,鋭意取り組んでいるところです。

  • T. Toriyama, A. Nakao, Y. Yamaki, H. Nakao, Y. Murakami, K. Hasegawa, M. Isobe, Y. Ueda, A. V. Ushakov, D. I. Khomskii, S. V. Streltsov, T. Konishi, and Y. Ohta, Phys. Rev. Lett. 107, 266402 (2011)
  • S. Nishimoto and Y. Ohta, Phys. Rev. Lett. 109, 076401 (2012)

ディラック電子系の金属絶縁体転移:変分クラスター近似による解析

フェルミ点とその周りの線形バンド分散で特徴付けられるディラック電子系が、電子間相互作用の増大と共にどのようにモット絶縁体に転移するかという問題は、量子モンテカルロ法による最近の数値計算結果により注目された物性物理学の基本問題である。 本研究では、自己エネルギー汎関数理論に基づく変分クラスター近似(VCA)とクラスター動的不純物近似(CDIA)を用いて、ハーフフィリングのハニカム格子ハバード模型とπフラックスハバード模型の電子相関効果による金属絶縁体転移を調べ、ディラック電子系の半金属相は、相関効果の増大と共に、スピン流体相を経由することなく反強磁性絶縁相へ直接転移することを明らかにした。

  • M. Ebato, T. Kaneko, and Y. Ohta, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 044714 (2015).

モリブデンホランダイトにおける超原子結晶の創出

モリブデンホランダイトK2Mo8O16について密度汎関数理論に基づいた電子構造計算を行い、次のことを明らかにした。

  1. 4つのMoイオンのクラスター化により、フェルミ準位近傍にMoの4d-t2g軌道からなる4本のエネルギーバンドが現れる。
  2. Mo4クラスターは「超原子」(単一の分子軌道を持つ仮想巨大原子)として振舞う。
  3. この系の低エネルギー電子構造は、単位胞に4個の超原子を含む単純な格子構造に凝縮した超原子固体と等価であると見なせ、従ってフェルミ準位付近にバンド幅の狭い4本のエネルギーバンドが生み出される。
  4. この格子は、単位胞に4個の電子を含む単純モノクリニックな対称性を持つので、K2Mo8O16のフェルミ準位付近の電子状態は、実は驚くほど単純である。
  5. ハバード型の有効格子模型の解析から、この物質が、高いイオン性を持つバンド絶縁体か、あるいは強い磁気的フラストレーションを持つモット絶縁体のどちらかであると結論される。実験との整合性からはモット絶縁体が示唆される。更なる実験的研究を期待したい。

  • T. Toriyama, M. Watanabe, T. Konishi, and Y. Ohta, Phys. Rev. B 88, 235116 (2013)
  • M. Watanabe, T. Toriyama, T. Konishi, and Y. Ohta, JPS Conf. Proc. 3, 014002 (2014)

V6O13の金属絶縁体転移に伴う電荷・軌道秩序の機構

ワズレイ相バナジウム酸化物V6O13は、高温では常磁性金属であるが、150Kで1次の金属絶縁体転移を示す。 この転移点で構造歪みが発生するが、それに伴って一様帯磁率が急に減少する。 更に温度を下げると、55K以下では反強磁性の長距離秩序が生じる。 Vイオンの形式価数がV4.33+の混合原子価状態(V5+(3d0)とV4+(3d1)が1:2の比)にある。密度汎関数理論に基づく電子状態計算で次の結果を得た。 金属絶縁体転移点において、V(1)イオンからなる1重トレリス層で電子が占有する軌道の再構成が起こり、同時に、2重トレリス層でV(2)イオンからV(3)イオンへ電子の移動が起こり、V(2)イオンが非磁性になる。 この変化によって、V(1)イオンからなるジグザグ鎖においてdyz軌道とdxz軌道の軌道秩序化が起こり、それに伴ってスピン一重項状態が形成されること、さらにV(3)イオンからなる層がモット絶縁化し、V(3)イオンのdxy軌道からなるジグザグ梯子上のフラストレートしたスピン系が実現することが分かった。 従ってこの物質の最低温相では、スピン一重項状態と反強磁性状態が空間的に分離して共存しているということになる。 1重トレリス層に隠されたバンド・ヤーン・テラー不安定性(強相関極限では軌道秩序化への不安定性)が、この物質の金属絶縁体転移の起源であることが示唆された。

  • T. Toriyama, T. Nakayama, T. Konishi, and Y. Ohta, Phy. Rev. B 90, 085131 (2014)

グラファイト上の2次元ヘリウム原子系に発現する新しい量子流体相

フェルミ原子3Heがグラファイト上で三角格子を構成した2次元ヘリウム原子系は、リング交換相互作用の効果で、新しい特異な量子流体を形成する。 本研究では、この系の量子状態を解明し、極低温において観測される比熱の二重ピーク構造の起源を明らかにした。

  • K. Seki, T. Shirakawa, and Y. Ohta, Phys. Rev. B 79, 024303 (2009)

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